からだの病気をおこしやすい飲みかた
お酒は飲み過ぎると必ず体に異常をきたして病気になります。
特に病気になりやすい飲み方
若いころには一升酒を飲んだ翌日もケロリとしていた酒豪でも、体力に限界を感じはじめる40代後半になると肝臓の解毒能力がおちて翌朝に酒気が残るようになります。
そのまま酒量を落とさずに飲みつづけていると、全身の内臓がいたんできて、いろいろな成人病をおこしてきます。「アルコール依存症」はこうしてできあがるのです。もともとアルコール依存症であった人たちの断酒会に出席してみると、60代かなと思った人が、聞いてみると40代といわれておどろくことがあります。
長年の酒毒によってあらゆる内臓がやられているために、アルコール依存症の人にはほんとうの年よりも老けてみえる人が多いのです。
20代から一升酒を飲みつづけた結果、ありとあらゆる成人病をおこし、まるで70~80代のお年寄りのような顔つきになって死亡した事例もあります。
では、どんな飲みかたがからだに悪い飲みかたなのでしょうか。
「肴はあぶったイカでいい♪」と歌う演歌がありましたが、肴にうるさい酒飲みは伝統的な酒飲みの美学から外れるようです。
「上戸」とよばれるほどの酒飲みは、肴は目でたのしむだけで、決してハシをつけず、ひたすらお酒だけを飲むといいます。かろうじて許される肴は小皿にもったネギに味噌という「ネギ・ミソ派」のみが、「上戸」とよばれるに値するものでした。
こういう飲みかたをすると、早く酔えることはたしかです。酒が途方も亡く高価だった時代に、少量の酒で酔っぱらうための庶民の知恵だったのでしょうか。しかし、こうした酒飲みの美学に忠実な飲みかたは、じつはからだにもっとも悪いのです。
お酒と内臓の病気
消化器系は最初にお酒を通過するのでダメージを受けやすくなります。
最初にやられてしまう臓器
まず害をうけるのが、アルコールが通過していく消化器系です。からっぼの胃にウィスキーや焼酎などの濃い酒を流しこむ飲みかたをつづけていると、急性胃炎から胃潰瘍になっていきます。もっとも、お酒を最初に流しこまれる食道のほうがまっさきに被害をうけるので、アルコール依存症の人には食道がんが多いともいわれています。
食道ガン「リンパ節転移の触診が治癒を大きく左右する」 | 健康メモ
https://health-memo.com/2016/06/28/%e9%a3%9f%e9%81%93%e3%82%ac%e3%83%b3%e3%80%8c%e3%83%aa%e3%83%b3%e3%83%91%e7%af%80%e8%bb%a2%e7%a7%bb%e3%81%ae%e8%a7%a6%e8%a8%ba%e3%81%8c%e6%b2%bb%e7%99%92%e3%82%92%e5%a4%a7%e3%81%8d%e3%81%8f%e5%b7%a6/
アルコールは皮膚につけてもじリヒリします。デリケートな食道や胃の粘膜を毎日これで消毒している理屈ですから、胃袋が反乱をおこすのももっともでしょう。
二日酔いのムカムカも、飲みすぎによる急性胃炎の症状によることが多いのです。
イヌに20% 以上のアルコールを飲ませていると、急性胃炎からやがて胃潰瘍をおこすという動物実験もあります。
一升酒を飲む方は、胃切除をうける人が多いのですが、胃袋をとってしまうと濃度の高いアルコール分が吸収のよい小腸に直接いく結果になるので、酒がいっそうよく効くことになります。
「酒のために胃を悪くした。悪いところはみなとった。だから酒を飲んでもいい」という奇妙な三段論法を駆使して、胃切除後も酒を飲みつづけると、残胃がんにかかって若くして亡くなってしまいます。こうして天国に召されないまでも、胃切除をうけてから5年ぐらいのうちに「アル中双六」の上がりとなって、入院する方がいます。
最近は内視鏡が発達しているので、食道から胃・十二指腸までのアルコールによる病気の状態がひと目でわかるようになっています。
アルコール依存症における内視鏡異常所見の内訳
- 食道静脈瘤(22%)
- 食道ガン(2.3%)
- マロリー・ワイス症候群(2.3%)
- マ食道裂孔ヘルニア(2.3%)
- 急性胃炎(11.6%)
- 出血性びらん(9.3%)
- 慢性胃炎(7.0%)
- 胃潰瘍(23.3%)
- 多発性胃潰瘍(10.4%)
- 十二指腸潰瘍(11.6%)
- 多発性十二指腸潰瘍(3.4%)
肝硬変による食道静脈瘤が高い割合であるのはべつにしても、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などがおこる割合は、一般人間ドックなどでの成績にくらべてやはり高い傾向です。
このなかで、マロリー・ワイス症候群とは、嘔吐などで急に腹圧が上昇したときに胃の噴門部に裂けめができて血を吐く病気で、食道静脈瘤の破裂とまぎらわしいものです。まれですが、重要な病気です。
症状は、嘔吐がつづいた4~12時間後に、しゃっくりやせきとともに吐血がおこります。診断は、内視鏡検査で噴門部の裂けめと出血とを確認することです。
そのまま禁酒、禁食にして点滴をしながら安静をまもれば回復しますが、ショックをおこしたときには噴門部を切りとる手術になります。大酒のあとで胃の腑が裏返しになるような苦しい嘔吐がとまらず、おまけにしつこいしゃっくりやいやなせきがでてきたら、そろそろ手術の覚悟をしたほうがよいでしょう。
お酒と肝臓の病気
お酒=肝臓の病気というほど肝臓の病気はお酒と深い関係にあります。
肝臓に影響のある病気
割りバシの塩をなめなめ、ひたすらお酒だけを飲む究極の「上戸」がいましたが、こうした飲み方をすると肝硬変になる確率が非常に高くなります。
肝硬変の内科的療法としては、高たんばく、高カロリー、高ビタミンをあたえる食事療法が有名です。美空ひばりが急逝したのは、あやしげな外国人の「断食療法」を信奉したためでした。
「肝臓食」の食事療法を考案したコロンビア大学の2人の学者は、肝硬変になるのはアルコールのもともとの毒よりも、酒の飲みかたによる栄養障害の結果にすぎないという説をたてています。
したがって、水原弘や石原裕次郎などの「酒飲みの美学」を満足させる豪快な飲みかたは、まるで肝硬変になるのを志願しているようなものといえるのです。
ここで、酒と肝臓との関係についてです。体内にはいったアルコール分は肝臓で分解されて体外にでていきます。
体重60kgの平均的な日本人が1時間で分解できるアルコールの量は6.6gでした。これは清酒50ml(ウィスキーでは20ml、、ビールでは180ml)に相当します。
400ml(二合余)の清酒が体内から完全に消えてしまうには、長めに見積もると8時間を要することになります。この倍量、すなわち4合以上を飲めば、アルコール分は当然、翌日まで残る計算になります。5合以上の酒を毎日のように飲む大量飲酒者は、肝臓にいつもかなりの負担をかけつづけていることになるのです。
その証拠に、まだ自覚症状のない大量飲酒者にGOTやγ-GTPなどの肝機能の血液検査を行うと、その八削が肝臓障害に相当する異常値を示すということです。
このような大量飲酒をつづけていると、まず肝細胞のなかに脂肪が沈着する「脂肪肝」がおこり、ついで食欲不振、嘔吐、黄疸、発熱をともなう「アルコール性肝炎」になります。それでもこりずに飲んでいると、だいじな肝細胞がすっかりこわれてガラス様線維におきかわり、ついにはやわらかだった肝臓は縮んでコチコチになり、血液さえ通さぬ、瘢痕と化した「肝硬変」になるのです。
日本の肝硬変は、C型肝炎から進行するケースが多いのですが、純粋にアルコールだけからの肝硬変は3割近く、C型肝炎からなったと考えられた群にも大量飲酒者が圧倒的に多いのが事実です。また、アルコール病棟に入院してくる方の約3割が肝硬変にかかっているのです。
このように、アルコールは肝硬変の危険因子の最たるもので、脂肪肝になった人があいかわらず大量飲酒をつづけた場合、その3分の2までが肝硬変にすすむという統計さえあります。
肝臓は重要なはたらきをいくつももっています。胃腸から吸収された食べものから、たんばく質、脂肪、糖質の三大栄養素の合成を行っています。なかでも人の活力のもとである血糖の生産・調整を行うので、肝臓を悪くすると全身がだるく、疲れやすいのです。
このほかに、肝臓は胆汁の生産、造血、止血などの役目ももち、からだ中の解毒を一手にひきうけています。アルコールもまた毒物のひとつで、肝臓で分解されています。
だから健康な肝細胞が半分に減ると、その分解能力もとうぜん2分の1になります。長年の飲酒で肝臓をいためてからも、5合の酒を飲むとすれば、丈夫なときの1升に相当します。怖いことです。
また肝臓は、胃腸の血管から吸収された栄養物を運び、心臓へと返す「門脈系」という静脈血の大道路になっています。その中心の肝臓が縮んでコチコチになり、血液を通さなくなれば、胃腸から肝臓に集まってきた静脈血は、腹壁や胃や食道などの細い静脈をむりやり押しひろげて心臓にもどろうとします。そのため食道に静脈瘡をつくったり、また静脈血のとどこおりによって腹水がたまったりするのです。
肝硬変の予後
肝硬変はどういった予後をたどるのでしょうか?
肝硬変そのものが死因となる可能性
酒豪で有名なさる喜劇俳優がテレビで自分の静脈瘤破裂の体験談を語っていましたが、こうした食道の静脈瘤は、おなかがはって腹庄がかかったり、モチなどのかたい食べものを急に飲みこんだりすると、かんたんに破裂します。おまけに、肝硬変の方は、止血酵素であるプロトロンビンをつくる能力が落ちているので、出血するとなかなかとまりません。食道静脈瘤は、初回の破裂で半分近くの人が死亡します。
この静脈瘤破裂、有害物質を解毒できなくなったための肝性昏睡、それに肝臓がんへの移行が肝硬変の3大死因です。石原裕次郎の肝臓がんも、肝硬変の小さな種が死因です。
要するに、お酒による肝硬変とは飲みすぎがその原因なのであり、毎日清酒4合以上飲む人は、酒の飲めない人の6倍も肝硬変にかかりやすいのです。
その証拠に、壮大な社会実験ともいえる禁酒法施行中のアメリカでも、あるいは食糧不足のためワインを飲めなかった第二次大戦中のフランスでも、このあいだに肝硬変で死んだ人はふだんの約4分の1に減っています。
どんなに高たんばく食をとり高価な治療薬をのんでも、「肝臓毒」であるアルコールをやめないかぎり、肝硬変は治るわけがないのです。
外国の予後調査では、肝硬変と診断されてから断酒した人の7割は5年後にも生きのびていましたが、飲みつづけた人で生きのびた人は4割しかいません。
わが国の統計では、最近の三井記念病院の予後調査によると、同病院で肝硬変と診断されたのに酒をやめなかった人は、6年もたつとみな死亡しています。これにたいして、酒をキッパリやめた人の4割は生存していました。
慢性すい炎と栄養不良、下痢
おつまみを食べながら食べれば肝臓は大丈夫か?
肴をしっかり食べながら飲めば、肝臓は大丈夫か
これは、程度ものだとしか言いようがありません。いつも脂っぽい焼き鳥など高カロリーの肴をふんだんに食べながら飲む「酒飲みの下戸」、つまり、上戸の「ネギ・ミソ派」とは対照的な「焼き鳥派」の飲みかたはたしかに肝硬変にはなりにくいのですが、反対に慢性すい炎になりやすいのです。
すい臓は脂肪やたんぱく質を消化するすい液を出しています。大量の脂っぽい肴を食べると、すい臓に負担がかかりすぎて、ついには慢性すい炎になるのです。国内の慢性すい炎の方の5割以上がアルコール性のもので、当然ながら男性に多くなっています。
また、アルコール性すい炎は、普通のすい炎にくらべて、すい石など石灰化巣をもつものが多く、また糖尿病と合併する率が明らかに高いのでやっかいです。
慢性すい炎が再発をおこした急性期には、激痛のためショック死する人さえいます。つまり、慢性すい炎ですい臓に石ができていたりすると、化膿して急性すい炎をおこす場合があるのです。なにしろたんぱく質を消化するすい液が腹の中にもれるので、ものすごい激痛が襲ってきます。
その痛みは、ちょうど「背中に焼け火バシをつっこまれたように」と形容されるほどです。小腸内にすい液がでないので脂肪が消化されず、ギラギラした脂肪便がでます。便意をともなう腹痛発作であわてて病院のトイレにかけこんだものの、焼け火バシをつっこまれたような激痛で、トイレの中でショック死した人もいるほどです。このようなショックの例は急性すい炎の2~3割はあるということです。
また、小腸は胃から送られてきた栄養素を体内に吸収する重要な臓器ですが、その腸の粘膜はまっ先にアルコールに麻酔されるので、アルコール依存症の患者さんにはさまざまな栄養障害がおこります。しかも飲酒によって、胆汁やすい液など消化液の分泌が悪くなると、小腸や大腸の機能がおとろえて下痢が多くなります。
とくに大腸がアルコールで麻酔されると、便中の水分を再吸収することができなくなります。
ある方が長年の酒をやめました。「酒をやめて2~3日たったときに、20年ぶりで大きな固い便がでてビックリしました。あんなにまんまるで、黄色くりっばなやつは久しぶりでみました。酒を飲んでいたこの20年のあいだはいつも下痢便で、1日3回ぐらいグジャグジャした情けない便でした。人間って情けないもので、結果をみなければわからないのですね。このりっばな便をみて、私ははじめて、いままでがいかにアブノーマルな状態だったかよくわかりました」
俗に快眠、快食、快便といいます。彼は健康をとりもどした証拠として、黄色く、固い、りっばな便がでたことが、よほどうれしかったのでしょう。
しかし、酒をやめたあとに消化器系のはたらきがほんとうに回復して、体重がふえてくるには、半年から1年かかる方が多いようです。
糖尿病の合併
典型的な糖尿病の合併症
お酒と糖尿病の関係性
すい石をともなうような慢性すい炎では、約3割に糖尿病を合併する点が問題です。すい臓は血糖値を下げるインスリンをつくっているので、そのはたらきが低下すると、とうぜん、糖尿病がおこってくるのです。
また、慢性すい炎をおこしていなくても、肝障害や肥満による糖代謝の障害がおこるので、アルコール依存症の方は糖尿病を合併する率が高くなります。アルコール病棟入院時の方の約35%に高血糖があり、それが禁酒によって2週後には15% に減少します。
2週間の禁酒が脂肪値を半分に | 血管はもっと若返る
https://bloodvessel.biz/archives/113
したがって、アルコール外来を受診する方の15~20% が糖尿病の可能性大なのです。糖尿病が恐ろしいのは、全身のあらゆる血管がつまりやすくなるからです。心臓の血管がつまれば心筋梗塞、脳の血管がつまれば脳梗塞、眼底の血管がつまれば網膜変性症、腎臓の毛細血管がつまれば透析をうけねばならなくなるなど、恐ろしい合併症がえそたくさんあります。
また、足底の血管がつまって壊症をおこし、足首を切断しなくてはならなくなるケースもあるのです。糖尿病の方はカロリーを制限しながら、気長に食事療法をつづけなくてはなりません。お酒を飲むと、酒それ自体が高カロリーですので、この計算はメチャクチャになってしまいます。
おまけにアルコールはインスリンを生産するおおもとのすい臓をやっつけるのですから、糖尿病と診断されて酒をやめない人はダブル・パンチで自分のからだをいためつけている理屈になります。
「糖尿病には糖分の多いビールやワインはNGですが、ウィスキーならよい」という俗説を信じて、酒をやめない人も多いようです。しかし、どんなお酒であっても、アルコール1gは7kcalの熱量をもっています。お酒を飲んだら、その分だけ食事を減らさなくてはならないのです。医師の指導のもとに、まだインスリンは使用せず、食事療法だけですんでいる軽度の糖尿病の方あれば、3単位(ビール660ml、清酒二225ml、ウィスキー150ml)以下の以下のアルコールであれば認めようという、やさしい医師もいます。
このような、アルコール依存症と糖尿病とにくわしい先生の指導に忠実に従える方であれば、この程度のお酒は飲めるかもしれません。
しかし、酒を飲んで成人病になるような人は、とかく酒にたいしての欲求が人一倍強いものです。そうした人が、意志の座である大脳新皮質のブレーキをまっ先に麻酔させるアルコールの魔力に、はたして抗しうるものでしょうか。
とくに、インスリンの投与が必要な重症の糖尿病の方が飲酒することは、危険な低血糖発作をおこした場合に酩酊との区別がつかず、手当てが遅れて低酸素で脳がやられ、植物人間になることすらあるのです。
血糖値が高い人は飲み過ぎ、食べ過ぎの時だけ糖質カット酵母「パクパク酵母」くんを利用する方法もありますが、基本的に飲み過ぎをこの糖質カット酵母だけで処理するのは困難でしょう。
アルコール依存症で入院したことのあるような依存症の方になると、その半分がインスリン注射の必要がある人たちです。なかにはインスリン注射を打ち、そのあとごはんも食べずに酒を飲む方がいて、急死する例も多いのです。
特に、自制力にとぼしい方にはだんこ禁酒をすすめています。「おれはアルコール依存症ではないし、自分のからだのことはよくわかっているから大丈夫だ」と、糖尿病といわれながら酒を飲んでいるあなた。やがて心臓がとまる、目がつぶれる、足が腐りおちる、脳卒中になる、透析をうけねばならないと知れば、これだけ知れば、きっと今夜から酒がやめられるにちがいありません。
お酒と血圧
お酒と血圧の関係性
お酒と血圧の関係性はとてもわかりやすいものです
お酒を飲むと末梢血管がひろがって顔が真っ赤になったり、脈が速くなって心臓がどきどきするなどすぐに循環器に影響があらわれます。
飲酒によってはじめは血圧が下がりますが、その後は時期によって上がったり下がったり動揺します。1単位程度の少量の飲酒(ビール大びん1本、清酒なら1合、ウィスキーではダブル1杯) は、善玉コレステロールをふやして動脈硬化をふせぐ効果があり、ほかにも血小板の凝集を抑えて血栓をできにくくするはたらきがあります。
しかし、これはあくまでも1単位の少量の飲酒の場合で、念をいれて10単位以上も予防薬を召しあがるのは問題です。亜アルコール依存症の方は、入院時にその53% が高血圧になっています。入院して酒を断つとその80%で血圧が下がってきますが、ここでこまった問題がおこってきます。
酒が切れる離脱期には血小板数がふえ、その凝集能がたかまって血栓ができやすくなり、その結果、脳梗塞や心筋棟塞がおこりやすくなるのです。
とくに、アルコールは30代や40代で脳棟塞をおこす人の危険因子になりやすいといわれています。
たとえば、寒い北陸の地で出陣のたびに愛用の大盃を3杯傾けていた大酒豪の上杉謙信は、48歳のときに脳卒中で死亡しました。
以下は、アルコール依存症方の予後調査です。退院後の死因の第1位は肝硬変の27.8% ですが、2位で24.4% の心疾患と、4位で9.8% の脳卒中をプラスした循環系の病気の死亡率は、計34.2% とダントツです。また、日本ではは肝硬変による死亡率よりも脳棟塞による死亡率のほうが飲酒量の増加と深いかかわりをもっているといいます。
欧米のアルコール依存症は肝硬変で死亡する率が高いのですが、日本のアルコール依存症は脳卒中で死亡する率のほうがずっと高いのです
アルコール依存症の退院後の死亡統計
- 肝硬変(27.8%)
- 心疾患(24.4%)
- 脳卒中(10.2%)
- 事故(9.8%)
- アルコール精神病(3.9%)
- 食道ガン(3.4%)
- 胃・十二指腸潰瘍(2.9%)
- 胃ガン(2.4%)
- 咽頭・喉頭ガン(2.4%)
- 肺ガン(2.0%)
- 肝ガン(2.0%)
- 膵炎(1.0%)
- 糖尿病(1.0%)
- 肺炎(1.0%)
アルコール性心筋症
お酒を飲んで翌朝突然死するケース
心臓病とお酒の関係性
前の晩にこっそり酒を飲み、翌朝ふとんのなかで亡くなっているのを家人に発見される急死例が意外に多いのです。アルコール依存症には飲酒中や飲酒後の急死事故が多いのです。こうした急死例は、アルコール依存症の離脱期には血栓ができやすくなるので、心筋棟塞をおこすのであろうとか、あるいは飲みっばなしになるとひどいビタミンB1不足がおこるため、むかし脚気の主な死因だった脚気衝心とよばれる心不全がおこると考えられてきました。
しかし、栄養状態もよく、ビタミン投与をうけている大酒家にもこうした心不全はおこります。そこで、まれではありますが、アルコールで直接心筋がやられる「アルコール性心筋症」のあることがわかってきました。これは、ふだんは飲酒後に動悸や軽い息切れ、期外収縮を認めるくらいの軽い症状ですが、進行すると大酒後に突発性の呼吸困難の発作がおこり、急死する恐ろしい病気です。
多発性神経炎
そのほか突然死を招くお酒が原因で引き起こされる病気
その他の突然死
アルコールは、神経系のように脂肪に富んだ組織によくなじむ麻酔剤です。そこで、直接末梢神経をいためつける可能性があります。しかも、体内のアルコールを分解・排泄するためには、神経系の栄養剤であるビタミンB類(ビタミンB1、B2、B6 、ニコチン酸、パントテン酸、ビタミン12)をたくさん消費します。
したがって、ろくに栄養もとらずに飲みっばなしになっているようなアルコール依存症の方には、ビタミン欠乏による末梢神経炎のおこることが知られています。
事実、アルコール依存症で入院した350例中の約7% に末梢神経炎がみられました。この病気の病状は、両足のしびれ感にはじまる知覚障害から歩行障害へとすすみ、さらに進行すると上肢までもおかされて、ついには車イスが必要になる重症例も少なくありません。
たとえば、はじめは分厚いたびをはいたような知覚障害があり、スリッパがぬげやすいと訴えていました。そのうちにハシゴから落ちるようになって足場をつかう仕事ができなくなり、ついにはみえない手袋をはめているように手先の感覚までがなくなって、細かい仕事ができなくなりました。
断酒してビタミン剤を大量にのんだ結果、1半年もすると上肢の感覚障害はなくなりましたが、下肢の知覚・運動障害は残り、また下肢の痛みをともなう異常感覚はどうしてもとれませんでした。
この方は一度でこりて断酒しましたが、アルコール外来を受診するのが遅れたので、末梢神経炎は残ってしまいました。飲みだすととまらないアルコール依存症の方のなかには、こうしたエピソードを何回もくり返して、ついには松葉杖から車イスになるケースもまれではありません。
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