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アルコール依存症 自己診断

アルコール依存症の自己診断表

自分がアルコール依存症になっているのに自覚がない人が多い

自分でアルコール依存症かどうかを客観的に判断できる診断表

ある推計の調査で、日本には1日に清酒換算で5合以上のアルコールを週4日以上飲んでいる大量飲酒者が200万人以上もおり、その大半がアルコール依存症やアルコール依存症と考えられています。

しかし、毎日5合以上の酒を飲みながら、からだになにも異常がなく、きちんと会社に勤め、家庭にも特に波風の立たない、たんなる「大酒飲み」にすぎぬ人もいます。

このいわゆる「大酒飲み」と「アルコール依存症」とは、どこがちがうのでしょうか。相違点のひとつは、「大酒飲み」はいつでも酒がやめられるのに、「アルコール依存症」は、からだに悪いとわかっていてもどうしても酒がやめられないという、「酒に飲まれている」状態にあることでしょう。

しかし、これとて十分な説明ではありません。なぜなら、ある期間は1滴も飲まないのに、いったん飲みはじめると1週間から10日以上も飲みつづけ、ついには倒れてしまうという型のアルコール依存症があるからです。この「連続飲酒発作」こそアルコール存症の本質であると考えられています。

精神科医がその人をアルコール依存症と診断する基準は、きわめて社会的なものです。つまり、「朝から仕事を休んで酒を飲む」という状態がつづくようになれば、まず依存症であると考えてきたのです。しかし国によって飲酒の習慣はちがうため、この日本の定義は、日中から食事どきにワインを飲むフランスにはあてはまりません。

反対に、わが国を訪れた西欧の精神科医たちは、クリスマスイブの街頭でくりひろげられる酔態をみると、日本はなんとアルコール依存症の多い国かと驚きます。

つまりは、公共酩酊罪まである西欧社会と、酔っぱらい天国のわが国との飲酒文化のちがいがあるのでしょう。

神経症タイプ向きの自己診断表

自分がアルコール依存症かどうか心配なとき、自己診断をする方法はいくつかあります。たとえば、「アルコール依存症になりやすい性格」にもありますが、「アル中自己診断表」は、精神的な不適応から酒に逃避するタイプのアルコール依存症によくあてはまるスクリーニングテストです。

アル中自己診断表

  • 酒を飲んで仕事をさぼることがある
  • 飲ん家庭に波風が立つことがある
  • 飲んで人から不評をかう
  • 飲んだ後で深く公開する
  • 毎日、同じ時間に飲みたくなる
  • 飲まないと眠れない
  • 翌朝にまた飲みたくなる
  • 外でひとりでも飲む
  • 飲むと家庭のことに無関心になる
  • 酒が原因で経済的危機に陥ったことがある
  • おじけを除くために飲む
  • 自信をつけるために飲む
  • 不安から逃れるために飲む
  • 飲むと友人を見下したくなる
  • 飲むと仕事の能率がかなり低下する
  • 飲むと向上心がなくなってしまう
  • 飲んで完全に記憶を失ったことがある
  • 飲んで仕事上のミスをしたことがある
  • 飲んで医者にかかったことがある
  • 酒のために入院したことがある

アルコール依存症の場合、飲みたい一心から、自分がもう酒が飲めないからだになっていることをがんとして認めません。まして、自分が精神病院に入院しなくてはならないアルコール依存症だなどとは、死んでも認めようとしません。

事実、ある病院(アルコール依存症専門病院)のアルコール外来を受診する方の6割までもが、自分が依存症にかかっていることを否定します。

このように、家族につれられてしぶしぶ精神科医の前にあらわれるアルコール依存症の人の大半は、自分がアルコール依存症だとは思っていません。はなはだしいケースでは、過去に酒を断つために精神病院に入院したことがあり、おまけに幻覚などの禁断症状を経験した人でさ、え、自分がアルコール依存症であることをだんこ否定する場合があるのです。

したがって、アルコール依存症治療の第一歩は、本人にアルコール依存症であることを認めさせる「病識」をもってもらう作業からはじまるといえます。この病識をもってもらうために、「アル中自己診断表」にマルをつけてもらうのは、同時にアルコール依存症の理解をも探めるよい方法です。

あなたはいくつマルがつくでしょうか。わが国にあてはめると、マルが4~6個つくと、アル中であるとされています。しかし、アルコール依存症の方は内輪に申告することが多く、本人は2つぐらいしかマルをつけません。この場合、つき添ってきた奥さんにつけてもらうと、10個以上もマルがつくという光景がよくみられます。
アルコール依存症の方んには謙虚な人が多いのです。

アルコール依存症スクリーニングテスト

以下の「アルコール依存症スクリーニングテスト」は、まずからだの症状から患者さんに接するようになっており、内科医側にもつかいやすいテストです。自己診断の評価などについては、以下を参考にしてください。

酒が原因で人間関係にヒビがはいった
  • はい(3.7)
  • いいえ(-1.1)
今日だけは飲むまいと思っても飲んでしまう
  • はい(3.2)
  • いいえ(-1.1)
周囲の人から大酒のみと避難された
  • はい(2.3)
  • いいえ(-0.8)
適量でやめようと思ってもつい酔いつぶれるまで飲んでしまう
  • はい(2.2)
  • いいえ(-0.7)
翌朝、前夜の記憶がところどころない
  • 時々ある(2.1)
  • いいえ(-0.7)
休日は朝から飲む
  • はい(1.7)
  • いいえ(-0.4)
二日酔いで欠勤したり、大事な約束を守らない
  • はい(1.5)
  • いいえ(-0.5)
糖尿病、肝臓病、心臓病と診断された
  • はい(1.2)
  • いいえ(-0.2)
酒がきれると、発汗、手の震え、イライラや不眠で苦しむ
  • はい(0.8)
  • いいえ(-0.2)
仕事上の必要で飲む
  • はい(0.7)
  • いいえ(-0.2)
酒を飲まないと傷つけないことが多い
  • はい(0.7)
  • いいえ(-0.1)
ほとんどの毎日清酒3合(ビールは大瓶3本)以上の晩酌をする
  • はい(0.5)
  • いいえ(0)
酒の失敗で警察沙汰になったことがある
  • はい(0.5)
  • いいえ(0)
酔うと怒りっぽくなる
  • はい(0.1)
  • いいえ(0)

点数診断

  • 2点以上(重篤問題飲酒群)
  • 2~0点(問題飲酒群)
  • 0~-5点(問題飲酒予備群)
  • ~-5点(正常飲酒群)

アルコール依存症のときの受診先

アル中自己診断表やアルコール依存症スクリーニングテストで自分がアルコール依存症だったときは

まずは内科医の受診でいいのか?

アルコール依存症の方は、ほとんどの場合、精神科医の外来にあらわれる前に、内科や外科の医師にかかっています。たしかに、アルコール性肝炎などの「からだのアル中」程度の人は、まず内科医や外科医によって「アルコール依存症」の断酒指導がうけられれば最適です。

しかし、酒飲みは自分の酒量を減らすことに強い抵抗があるので、「すこしならいいでしょう」といってくれる医師に会うまで、病院めぐりをする傾向があります。これではなんにもなりません。信頼できる医師をみつけたら、受診しつづけることを第一にしてください。

アルコール性肝硬変への第1段階は、肝細胞のなかにべったりと脂肪滴がつく「脂肪肝しですが、血清酵素検査のなかで慢性期に増量するγ・GTP活性の上昇がこの脂肪肝発生のよいめやすになります。

GOT、GPTが高い、さらに値が不安定ならシジミ(使用感、効果)
https://record-p.com/gotgpt/

健康な成人に実験的に、1日1.2升の大量の清酒を2日間、その半量の毎旦6合なら8日間つづけて飲ませると、脂肪肝が確実に生じます。
このとき、急性期に血中に増量するGOTは軽度に上昇しますが、もう1つのGPTは正常範囲のことが多いのです。しかし、2週間禁酒するとγ-G TP はほとんど正常値までもどります。

2週間の禁酒が脂肪値を半分に
https://bloodvessel.biz/archives/113

もっとも、まだこの段階では肝細胞に脂肪滴が残っており、脂肪滴が完全に消えるにはなお数週を要するとされています。

酒飲みは、内心では肝機能の数値をいつも気にしています。そんな人にとって、このγ-GTP値の低下は断酒をつづけるうえでなによりのはげみになるようです。

この2週間の禁酒すらまもれないグループには、断酒会への参加や精神科医への受診をすすめているそうです。アルコール依存症がすすんで、しばしば問題行動をおこすようになったら、やはり手なれた精神科医を受診したほうがよいでしょう。

大量飲酒と問題行動の関係

お酒を毎日飲んでも問題行動がない人もいる

問題行動を起こさなくてもアルコール依存症に該当するのか

毎日5合以上の酒を飲んでいる人を「大量飲酒者」とよびますが、厚生労働省はこの大量飲酒者をアルコール依存症に近い存在とみなしています。

これにはちゃんとした根拠があるのです。禁断症状までおこして精神科医から「アルコール依存症」とのお墓付きをいただくには、さまざまな段階を通らなくてはなりません。

まず新入生コンパなどで生まれてはじめて酒を口にする「初飲期」から、毎週1回以上定期的にお酒を飲むようになる「習慣性飲酒期」を通り、さらに清酒換算で1日5合以上のお酒を週4日以上飲むようになる「大量飲酒期」をへて、アルコール依存症と診断されると「アル中双六」は上がりとなります。

厚生労働省が重視している「大量飲酒者」は、すでにアルコール依存症の方とかわらない問題行動の発生率を示していることがよくわかると思います。保健所に酒害相談にくるケースは、とうぜん、一般内科外来を受診するケースよりもこじれて手のかかる事例が多いわけです。これらのケースでは、警察に保護されるなどの社会的問題行動、無断欠勤などの職場的問題行動、家族解体につながる家庭的問題行動などのどれひとつをとっても、大量飲酒段階ですでにはっきりと表にあらわれています。

依存症であると診断された時期の問題行動とくらべて、その質も頻度もまったくかわらないことがおわかりいただけるでしょう。しかも、この大量飲酒段階からわずか4年以内に依存症に移行している事例が、4割弱もあるのです。大量飲酒の段階からほんものの依存症になるまでの期間は、思ったよりも早く、それをストップするのは専門の精神科医でもなかなかむずかしいのです。

これがまた、アルコール依存症の恐ろしいところです。ご質問の静かな大量飲酒者の場合でも、いつかは飲酒による欠勤などの職業的不適応をおこし、やがて家族への暴力などの家庭的問題行動や警察保護という社会的問題行動をしばしばくり返す依存症の患者さんへと変身していきます。
ついには家庭崩壊や失職にまでいたるのが、アルコール依存症の本質なのです。したがって、大量飲酒者で、問題行動が最近ふえてきた場合には、早めに専門の精神科医を受診してアルコール依存症の治療をはじめる必要がありますし、まだなにも問題行動がないとしても、将来を考えれば、お酒をひかえてもらうべきです。

お酒を飲んだときの脳はどんな状態になっているか

アルコール依存症のときの脳のはたらき

さまざまな都市伝説のようなものから正しい情報まで

アルコール依存症になると、脳がアルコールなしでは機能しなくなる?

「酒は百薬の長」というのは、あくまでも清酒1合程度の少量のお酒のときです。5合以上の大量飲酒になると、まさに「酒は万病のもと」になり、あらゆる成人病にかかって若死にすることになります。

「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒は静かに飲むべかりけり」などと、数々の酒の名歌を残した若山牧水は、飲んで輿いたれば静かに和歌を吟ずる、まことによい酒飲みでした。

しかし、彼の酒量はかなりなもので、友人によると1日1升2合は常飲しており、胃潰瘍や肝硬変など多くの病気を併発して42歳で天折しました。

牧水のようにアルコール関連性成人病だけのものを、以前はアルコール依存症の予備軍と考えていました。しかし、これは決して予備軍ではなく、現役の「からだのアル中」だと考えるのが、新しいアルコール依存症の概念です。こうした静かな「からだのアル中」にたいして、はでな禁断症状をおこしたり、心理的・社会問題行動をおこして荒れる「脳のアル中」があります。

これは永年の飲酒によって大脳が障害されて、一時的なリバウンドである禁断症状から、やや長期の幻覚症へといたり、ついには、もとにもどらないアルコール痴呆までをおこします。

また、そのあいだには、人格低下状態によって、家族や職場などをトラブルにまきこみます。これが、アルコール依存症の最大の問題点なのです。

酒量がふえる「耐性獲得」から「心理的依存」の段階をへて、ついにはポケットウィスキーのかくし飲みをする、からだが酒をよぶ「身体的依存」の段階にいたると、中枢神経はアルコールなしにははたらけない状態になってしまいます。

このとき、アルコールを中断すると、とうぜん神経系がリバウンドをおこして一過性に過剰な興奮状態になります。これが俗にいう禁断症状で、学名を離脱症候群もしくは退薬症候群といいます。

アルコール依存症ができあがるまでの期間

恐ろしいアルコール依存症になるまではどのくらいの期間がかかるのでしょうか

身体的なアルコール依存症をおこすようになるまでの年月

アルコールを飲みはじめてから身体的依存をおこすまでの期間は、その飲みっぶや個人差があってさまざまです。また、時代的な背景も考えなくてはなりません。

たとえば、所得にくらべてお酒が高価であった3~40年前には、お酒を飲みほじめてから禁断症状をおこすまでに、少なくとも20年はかかると考えられていました。

それが、高度成長によってだれでもが酒をたっぶり飲める時代になって、たちまち40歳代で肝硬変で死亡する事例もでるようになりました。

そのころから、半分の10年で身体的依存になる人もあらわれるようになりました。その後、成人男性よりも酒に抵抗性の弱い未成年者や女性のアルコール依存症がふえてくるにしたがって、さらに、その半分の5年間で禁断症状をおこすことがわかってききした。

現在では、清酒換算で5合以上の大量のお酒を週5日以上のペースで5年間飲むと、りっばな禁断症状がおこるとされています。

男性のアルコール依存症の方は飲みはじめから入院まで平均20年かかっていたのに対し、女性の方は平均8年と、半分以下で「アル中双六」の上がりとなっていました。

最近は崩壊家庭などの女子中学生で典型的な禁断症状をおこす例がみられるといいますから、抵抗力の弱い未成年の女子では4年以下の短い期間で最終段階まですすむと考えられます。

この点で、未成年の飲酒を助長するCMや酒類自販機の設置は、日本の将来をあやうくする社会問題であるといわざるをえません。
毎晩のようにボトルをかかえ、飲まないと眠れなくなっているあなた。もし、急病で入院するようになったら、恐怖の幻覚が今夜にもあらわれるかもしれません。

禁断症状=振戦せんもう

典型的な禁断症である振戦せんもうについて

典型的な禁断症状

アメリカのビクターは多年にわたる観察から、禁断症状が4段階にしたがってあらわれることを明らかにしています。まず、断酒後7~8時間すると手のふるえ(振戦)と一過性の幻視があらわれ、つぎにてんかんとおなじ全身けいれん発作、ついで12時間後には幻聴があらわれます。
以上の3つを「小離脱症候群」といいますが、かならずしも3つそろってあらわれるとはかぎりません。小離脱期にけいれん発作をおこす人は4分の1にすぎないのです。禁断症状の中心は、断酒後3日めにあらわれて2~3日間つづく「振戦せんもう」とよばれる幻覚妄想状態です。この期の興奮はきわめて強いため、かつては精神病院の保護室に収容されて、禁断症状なのにアルコール精神病として分類されていました。

しかし、この2~3日間がすぎると、長時間死んだように熟睡し、目覚めるとおこりが落ちたようにまったくの正気にかえります。つまり、振戦せんもうは一過性の禁断症状にすぎないのです。次のような実例もあります。

振戦せんもう

53歳の工員です。30歳のときから毎晩3合以上の焼酎を飲んでいました。50歳のとき、肝障害をおこして入院しましたが、酒をやめませんでした。

ある日、来客があって大量の酒を飲み、その翌朝、めまいや嘔吐が強いので緊急入院しました。外来で診察中にとつぜんけいれん発作をおこし、すぐにCTスキャンをとりましたが、異常は認められませんでした。内科病棟に入院しましたが、その晩から一睡もできず、手指のふるえや発汗がひどい状態でした。

つぎの晩は看護室に釆て、「隣の部屋のベッドに青いドレスの女が寝ている」「こんなお化けのでる病室はかえてくれ」と要求しました。

翌日、医師が診察すると、「天井にアリがいっぱいむらがっている」と典型的な小動物幻視を訴えました。このように、虫や蛇、小人などの小動物幻視の多いのがこの時期の特徴なのです。

あらかじめジアゼパム(ホリゾン、セルシン) を30mg程度あたえておくと、こうした禁断症状を防止できることが多いようです。

しかし、このケースのようにいったん禁断症状をおこしてしまうと、くすりをもちいてもあまり効きめはありません。この方は、つぎの晩もおちつきがなく、「表に迎えの車がきているから」と病棟からでようとしたため、当直医がかけつけてイソミタールの静脈注射で眠ってもらいました。注射後15時間熟睡し、目覚めたあとはまったくの正気にかえりました。

あとで聞いてみると、その晩は病室全体が大きな窓にみえて、表で機動隊の車が待っている、なにも悪いことをしていないのに、どうしてつれにきたのか不安で、それになんども注射をされるので殺されると思い、必死で抵抗したのだという話しでした。

禁断症状=アルコール幻覚症

幻覚症という禁断症状

幻覚症という症状について

振戦せんもうは、活発な幻視が主体です。これにたいして、幻視はおこらずに、自分を脅かす声やドラムの音などの幻聴がおもな症状で、しかも経過のやや長い「アルコール幻覚症」が、まれにおこります。

幻覚の事例

52歳の調理師です。従軍して中国酒を覚え、終戦後は焼酎、ウィスキーなど約4合分を約20年間飲みつづけていました。

8年前から糖尿病や肝臓の障害で入退院をくり返していますが、最近はやけ気味でウィスキーのボトル1本を毎日飲んでいました。

ある日の帰宅後、いつものように飲んでしばらく眠りましたが、とつぜん愛国行進曲が耳もとで聞こえ、軍靴を踏みならすザクザクという音が遠くなったり近くなったりするので目が覚めました。

耳がガンガン鳴るのをがまんして眠ろうとすると、また行進曲と軍靴の音が聞こえます。そのうちに「オーイ」と戦友のよぶ声がし、「どうした!」と彼によびかけてきました。あまりはっきり聞こえるので、だれかが家の外で自分をねらっていると思い、竹刀をもってドアを開けましたが、だれもいませんでした。そこに妻が帰ってきて大のようすにおどろき、精神病院に入院となりました。

アルコール・パラノイアとアルコール性痴呆

脳が慢性的に障害されると

具体的に起きる症状

脳がアルコールによって慢性的に障害されると、さまざまなこころの症状があらわれてきます。その代表はアルコール・パラノイアとアルコール性痴呆の一種であるコルサコフ精神病です。

アルコール・パラノイア
いままでの事例はいずれも急性期に出現するものでした。これにたいして、慢性化して妄想状態を示すようになったものをアルコール・パラノイアといいます。しかし、アルコールによる妄想の内容ではなぜか嫉妬妄想が圧倒的に多いので、むかしから「酒客嫉妬妄想」とよばれてきました。
アルコール依存症になぜ嫉妬妄想が多いのかについては、いろいろな学説があって議論が定まっていません。単純に考えると、アルコール依存症にはインポテンツが多いので、妻が浮気をしているという疑いをもちやすくなるからではないかと説明されてきましたが、最近の学説を読んでみると、もっと深遠な論理によって理解されるべきもののようです。
アルコール・パラノイアの事例
58歳の工員の方です。20年来の飲酒歴があります。1年前から妻が浮気をしているといいだし、ついに包丁をもって妻を追いかけるようになり、警察に保護されて受診しました。「いい年をして恥ずかしい話です」とはいいますが、問診してみると、「火のないところには煙はたたぬ。妻は10人も二〇人もの男の相手をしている。会社の同僚とも通じていて、連絡をとりあっているから」といって、出社もしないで電話番をしているとのこと。「近所の人も妻の浮気を知っていて、うわさになっています」と、嫉妬妄想のことになると、まったく自分が病気であるという意識がありませんでした。
アルコール性痴呆
アルコールによって脳細胞の脱水や脂肪分の溶解がおこるため、お酒を長く飲みつづけると脳細胞がこわれて脳萎縮がみられます。
そのため、いろいろな程度の痴呆がおこってきますが、コルサコフ精神病とよばれる特殊な型をとることが多いとされています。
コルサコフ状態とは、記憶力が極端に悪くなり、時間や空間への認識(見当識)がなくなり、これに作話症がくわわった痴呆状態のことです。狂犬病ワクチンの副作用によってコルサコフ状態になったものと鑑定されています。
コルサコフ精神病の事例
53歳の職人の方です。20年以上、毎日ウィスキーを半本飲んでいました。45歳ですい炎、49歳で胃潰瘍の手術をうけています。
手術後動けなくなり、妻が勤めにでると、それをいいことに食事もろくにとらず、酒びたりの生活になりました。家で数回倒れたこともありますが、放置されていたようです。ある日、妻の旅行中に大量のお酒を飲みました。妻が帰宅した翌朝に、床の上に座ってなにか虚空にあるものをつかむようなそぶりをし、よびかけても返事をしないので緊急入院となりました。すぐに点滴などの治療をうけ、あらかじめジアゼパムの投与を行ったので離脱症候群はおこりませんでした。入院後1ヶ月たち、歩けるようになりましたが、トイレに行くと方向がわからなくなり、自分の部屋へ帰れず、すましたばかりの食事をまた催促するなど異常行動が目立つようになりました。
診察してみると、日時や場所についての見当識がまったくありません。忘れないよぅにと、自分の病室の番号をマジック・インクで手のひらに書いていました。付き添っている娘の名前をたずねると、妻の名前を答えます。CTスキャンでは脳萎縮が明らかでした。検査室から自分の病室へ帰り、ベッドの自分の名札をみると「同姓同名の人がいるんですね」などといいます。この痴呆状態は3ヶ月以上たってもまったくよくなりませんでした。

アルコール性痴呆と健忘症のなりたち

お酒の飲み過ぎで家族に迷惑をかける健忘症や痴呆

健忘症や痴呆的な症状の原因

ヒトの記憶には、側頭葉の海馬や視床、脳幹の乳頭体をむすぶ「記憶のサーキット」が深くかかわっています。ろくに食事もとらずに飲みつづけていると、神経の栄養剤であるビタミンB1類が大量に消費されて、脳幹の乳頭体が障害をうけ、健忘症候群をおこすのです。大量のビタミンB1をふくむ点滴などの手当てを行いますが、意識までがおかしくなるウェルニッケ型脳炎をおこすと、命は助かっても記憶障害はもとにもどらず、廃人になることが多いのです。

大量飲酒と脳の萎縮

重症な脳の異常

重症の痴呆は例外的に自分には関係ないと思っていると…

「そんな重症の痴呆など、ふつうの酒飲みの自分には関係ない」と思っているあなた。アルコール痴呆はいつの間にかあなたにもしのびよっています。

コルサコフ型痴呆は、むちゃ飲みで脳が栄養障害をおこしたものです。アルコールはもともと脂肪となじみやすい麻酔剤で、それに脳細胞はほとんどが脂肪でできている臓器です。

ですから、毎日の飲酒でアルコールは直接あなたの大脳に浸みこんでいるのです。それに、二日酔いのときの割れるよ、つな頭痛は、アルコールの浸透圧によって脳細胞内の結合水が60%も失われて、脳がちょうど梅酒のなかの梅の実のようにしわしわに縮んだ状態からおこるものなのです。

もちろん、翌朝の水分の補給で脳の脱水は回復しますが、こうした大酒をくり返しているアルコール依存症の方のCTをとってみると、非飲酒群よりも年齢にくらべて脳萎縮をおこす率が明らかに高いことがわかっています。しかもその萎縮は、意志や判断の座とされる前頭葉においてはなはだしいのです。

アルコール依存症の方のなかには、意志が弱くて根気がなく、その場まかせで、モラルにとぼしく、判断力にかける浅薄な人格に低下している人がいます。しかし、彼らはへんなところにがんこで、自分の病気や欠点をガンとして認めないことが多いのです。この前頭葉症候群がまた、お酒を断つのをむずかしくしているといえるでしょう。

アルコール依存症と病気の意識

アルコール依存症の方は多くが病気という自覚がない

病気だという意識がかなり低い理由

ある工事会社の例です。この会社の社員は仕事柄どうしてもつき合い酒が多く、毎年の定期検診で飲酒関連成人病の指摘をうけながら、いっこうに酒をひかえない職員がたくさんいました。

そこで、そのうちのとくにひどい32名について飲酒態度調査を行いました。この会社は、従業員数1162人で、毎年1割以上が肝障害などの飲酒関連成人病にかかっているとの数値がでています。
彼ら32名はそのなかでもお酒の猛者でした。

細かい点は抜きにしても毎年、健診データをもとに産業医から成人病の指導をうけていながら、自分がアルコール関連の成人病にかかっているという意識がない人が多い点におどろかされます。
とくに尿糖や血糖値などの成績から糖尿病になっていることが明らかな2名は、そろって自分を糖尿病患者だと認識していないほどでした。しかし、それらの人たちも、自分以外の一般知識として飲酒と糖尿病とのかかわりを問ぅアンケートにたいして、そのかかわりを認める人は16.9% いました。

つまり、一般的常識として飲酒と成人病のかかわりをすこしは認識していますが、自分のかかっている成人病がじつは酒のせいだとわかっている人は意外に少ないのです。
これでは知人の産業医の指導がさっぱり効果を上げないはずです。

その理由は、この人たちが「酒がからだに悪いことは知っている。しかしおれはまだそこまではいっていない」と飲酒関連の成人病を自分自身の問題として認めていないこと、つまり精神分析理論をかりれば、「認識したくない」という幼児的な「否認」の心的防衛機制がはたらいているからでしょう。

このように、アルコール依存症の方が自分の病気をがんこに否定するのは、判断の座である前頭葉のはたらきがアルコールによって長いあいだ麻酔されつづけたあげく、すっかり弱くなってしまったからでしょう。

実際、体力がおとろえてくる45歳をすぎると、5歳きざみで成人病罹患率が急上昇してきます。とくに、定年前の55歳以上のグループでは、成人病をもつグループがじつに4割以上を占めています。

つまり、体力がおちても酒をひかえないでいると、これらのグループのように成人病をいくつもかかえて、週のなかばに休みをとりながら、やっとのことで勤務する状態になるのです。

定年前に死亡した事例も少なくありません。おたがいに寝たきりと恍惚の人にはなりたくないものです。むちゃ飲みをしていると、いちばんだいじな脳が萎縮して、ついには廃人になるという恐ろしいことになります。

飲みだすと食事もとらずにひたすら飲みつづけ、「酒飲みの美学」に殉じようとするあなた。その「美学」こそ、コルサコフ型痴呆へのなによりの近道となるのです。

飲み過ぎが原因の病気

からだの病気をおこしやすい飲みかた

お酒は飲み過ぎると必ず体に異常をきたして病気になります。

特に病気になりやすい飲み方

若いころには一升酒を飲んだ翌日もケロリとしていた酒豪でも、体力に限界を感じはじめる40代後半になると肝臓の解毒能力がおちて翌朝に酒気が残るようになります。

そのまま酒量を落とさずに飲みつづけていると、全身の内臓がいたんできて、いろいろな成人病をおこしてきます。「アルコール依存症」はこうしてできあがるのです。もともとアルコール依存症であった人たちの断酒会に出席してみると、60代かなと思った人が、聞いてみると40代といわれておどろくことがあります。

長年の酒毒によってあらゆる内臓がやられているために、アルコール依存症の人にはほんとうの年よりも老けてみえる人が多いのです。
20代から一升酒を飲みつづけた結果、ありとあらゆる成人病をおこし、まるで70~80代のお年寄りのような顔つきになって死亡した事例もあります。

では、どんな飲みかたがからだに悪い飲みかたなのでしょうか。

「肴はあぶったイカでいい♪」と歌う演歌がありましたが、肴にうるさい酒飲みは伝統的な酒飲みの美学から外れるようです。
「上戸」とよばれるほどの酒飲みは、肴は目でたのしむだけで、決してハシをつけず、ひたすらお酒だけを飲むといいます。かろうじて許される肴は小皿にもったネギに味噌という「ネギ・ミソ派」のみが、「上戸」とよばれるに値するものでした。

こういう飲みかたをすると、早く酔えることはたしかです。酒が途方も亡く高価だった時代に、少量の酒で酔っぱらうための庶民の知恵だったのでしょうか。しかし、こうした酒飲みの美学に忠実な飲みかたは、じつはからだにもっとも悪いのです。

お酒と内臓の病気

消化器系は最初にお酒を通過するのでダメージを受けやすくなります。

最初にやられてしまう臓器

まず害をうけるのが、アルコールが通過していく消化器系です。からっぼの胃にウィスキーや焼酎などの濃い酒を流しこむ飲みかたをつづけていると、急性胃炎から胃潰瘍になっていきます。もっとも、お酒を最初に流しこまれる食道のほうがまっさきに被害をうけるので、アルコール依存症の人には食道がんが多いともいわれています。

食道ガン「リンパ節転移の触診が治癒を大きく左右する」 | 健康メモ
https://health-memo.com/2016/06/28/%e9%a3%9f%e9%81%93%e3%82%ac%e3%83%b3%e3%80%8c%e3%83%aa%e3%83%b3%e3%83%91%e7%af%80%e8%bb%a2%e7%a7%bb%e3%81%ae%e8%a7%a6%e8%a8%ba%e3%81%8c%e6%b2%bb%e7%99%92%e3%82%92%e5%a4%a7%e3%81%8d%e3%81%8f%e5%b7%a6/

アルコールは皮膚につけてもじリヒリします。デリケートな食道や胃の粘膜を毎日これで消毒している理屈ですから、胃袋が反乱をおこすのももっともでしょう。
二日酔いのムカムカも、飲みすぎによる急性胃炎の症状によることが多いのです。

イヌに20% 以上のアルコールを飲ませていると、急性胃炎からやがて胃潰瘍をおこすという動物実験もあります。

一升酒を飲む方は、胃切除をうける人が多いのですが、胃袋をとってしまうと濃度の高いアルコール分が吸収のよい小腸に直接いく結果になるので、酒がいっそうよく効くことになります。

「酒のために胃を悪くした。悪いところはみなとった。だから酒を飲んでもいい」という奇妙な三段論法を駆使して、胃切除後も酒を飲みつづけると、残胃がんにかかって若くして亡くなってしまいます。こうして天国に召されないまでも、胃切除をうけてから5年ぐらいのうちに「アル中双六」の上がりとなって、入院する方がいます。

最近は内視鏡が発達しているので、食道から胃・十二指腸までのアルコールによる病気の状態がひと目でわかるようになっています。

アルコール依存症における内視鏡異常所見の内訳
  • 食道静脈瘤(22%)
  • 食道ガン(2.3%)
  • マロリー・ワイス症候群(2.3%)
  • マ食道裂孔ヘルニア(2.3%)
  • 急性胃炎(11.6%)
  • 出血性びらん(9.3%)
  • 慢性胃炎(7.0%)
  • 胃潰瘍(23.3%)
  • 多発性胃潰瘍(10.4%)
  • 十二指腸潰瘍(11.6%)
  • 多発性十二指腸潰瘍(3.4%)

肝硬変による食道静脈瘤が高い割合であるのはべつにしても、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などがおこる割合は、一般人間ドックなどでの成績にくらべてやはり高い傾向です。

このなかで、マロリー・ワイス症候群とは、嘔吐などで急に腹圧が上昇したときに胃の噴門部に裂けめができて血を吐く病気で、食道静脈瘤の破裂とまぎらわしいものです。まれですが、重要な病気です。

症状は、嘔吐がつづいた4~12時間後に、しゃっくりやせきとともに吐血がおこります。診断は、内視鏡検査で噴門部の裂けめと出血とを確認することです。

そのまま禁酒、禁食にして点滴をしながら安静をまもれば回復しますが、ショックをおこしたときには噴門部を切りとる手術になります。大酒のあとで胃の腑が裏返しになるような苦しい嘔吐がとまらず、おまけにしつこいしゃっくりやいやなせきがでてきたら、そろそろ手術の覚悟をしたほうがよいでしょう。

お酒と肝臓の病気

お酒=肝臓の病気というほど肝臓の病気はお酒と深い関係にあります。

肝臓に影響のある病気

割りバシの塩をなめなめ、ひたすらお酒だけを飲む究極の「上戸」がいましたが、こうした飲み方をすると肝硬変になる確率が非常に高くなります。

肝硬変の内科的療法としては、高たんばく、高カロリー、高ビタミンをあたえる食事療法が有名です。美空ひばりが急逝したのは、あやしげな外国人の「断食療法」を信奉したためでした。

「肝臓食」の食事療法を考案したコロンビア大学の2人の学者は、肝硬変になるのはアルコールのもともとの毒よりも、酒の飲みかたによる栄養障害の結果にすぎないという説をたてています。

したがって、水原弘や石原裕次郎などの「酒飲みの美学」を満足させる豪快な飲みかたは、まるで肝硬変になるのを志願しているようなものといえるのです。

ここで、酒と肝臓との関係についてです。体内にはいったアルコール分は肝臓で分解されて体外にでていきます。

体重60kgの平均的な日本人が1時間で分解できるアルコールの量は6.6gでした。これは清酒50ml(ウィスキーでは20ml、、ビールでは180ml)に相当します。

400ml(二合余)の清酒が体内から完全に消えてしまうには、長めに見積もると8時間を要することになります。この倍量、すなわち4合以上を飲めば、アルコール分は当然、翌日まで残る計算になります。5合以上の酒を毎日のように飲む大量飲酒者は、肝臓にいつもかなりの負担をかけつづけていることになるのです。

その証拠に、まだ自覚症状のない大量飲酒者にGOTやγ-GTPなどの肝機能の血液検査を行うと、その八削が肝臓障害に相当する異常値を示すということです。

このような大量飲酒をつづけていると、まず肝細胞のなかに脂肪が沈着する「脂肪肝」がおこり、ついで食欲不振、嘔吐、黄疸、発熱をともなう「アルコール性肝炎」になります。それでもこりずに飲んでいると、だいじな肝細胞がすっかりこわれてガラス様線維におきかわり、ついにはやわらかだった肝臓は縮んでコチコチになり、血液さえ通さぬ、瘢痕と化した「肝硬変」になるのです。

日本の肝硬変は、C型肝炎から進行するケースが多いのですが、純粋にアルコールだけからの肝硬変は3割近く、C型肝炎からなったと考えられた群にも大量飲酒者が圧倒的に多いのが事実です。また、アルコール病棟に入院してくる方の約3割が肝硬変にかかっているのです。

このように、アルコールは肝硬変の危険因子の最たるもので、脂肪肝になった人があいかわらず大量飲酒をつづけた場合、その3分の2までが肝硬変にすすむという統計さえあります。

肝臓は重要なはたらきをいくつももっています。胃腸から吸収された食べものから、たんばく質、脂肪、糖質の三大栄養素の合成を行っています。なかでも人の活力のもとである血糖の生産・調整を行うので、肝臓を悪くすると全身がだるく、疲れやすいのです。

このほかに、肝臓は胆汁の生産、造血、止血などの役目ももち、からだ中の解毒を一手にひきうけています。アルコールもまた毒物のひとつで、肝臓で分解されています。
だから健康な肝細胞が半分に減ると、その分解能力もとうぜん2分の1になります。長年の飲酒で肝臓をいためてからも、5合の酒を飲むとすれば、丈夫なときの1升に相当します。怖いことです。

また肝臓は、胃腸の血管から吸収された栄養物を運び、心臓へと返す「門脈系」という静脈血の大道路になっています。その中心の肝臓が縮んでコチコチになり、血液を通さなくなれば、胃腸から肝臓に集まってきた静脈血は、腹壁や胃や食道などの細い静脈をむりやり押しひろげて心臓にもどろうとします。そのため食道に静脈瘡をつくったり、また静脈血のとどこおりによって腹水がたまったりするのです。

肝硬変の予後

肝硬変はどういった予後をたどるのでしょうか?

肝硬変そのものが死因となる可能性

酒豪で有名なさる喜劇俳優がテレビで自分の静脈瘤破裂の体験談を語っていましたが、こうした食道の静脈瘤は、おなかがはって腹庄がかかったり、モチなどのかたい食べものを急に飲みこんだりすると、かんたんに破裂します。おまけに、肝硬変の方は、止血酵素であるプロトロンビンをつくる能力が落ちているので、出血するとなかなかとまりません。食道静脈瘤は、初回の破裂で半分近くの人が死亡します。

この静脈瘤破裂、有害物質を解毒できなくなったための肝性昏睡、それに肝臓がんへの移行が肝硬変の3大死因です。石原裕次郎の肝臓がんも、肝硬変の小さな種が死因です。

要するに、お酒による肝硬変とは飲みすぎがその原因なのであり、毎日清酒4合以上飲む人は、酒の飲めない人の6倍も肝硬変にかかりやすいのです。
その証拠に、壮大な社会実験ともいえる禁酒法施行中のアメリカでも、あるいは食糧不足のためワインを飲めなかった第二次大戦中のフランスでも、このあいだに肝硬変で死んだ人はふだんの約4分の1に減っています。

どんなに高たんばく食をとり高価な治療薬をのんでも、「肝臓毒」であるアルコールをやめないかぎり、肝硬変は治るわけがないのです。

外国の予後調査では、肝硬変と診断されてから断酒した人の7割は5年後にも生きのびていましたが、飲みつづけた人で生きのびた人は4割しかいません。

わが国の統計では、最近の三井記念病院の予後調査によると、同病院で肝硬変と診断されたのに酒をやめなかった人は、6年もたつとみな死亡しています。これにたいして、酒をキッパリやめた人の4割は生存していました。

慢性すい炎と栄養不良、下痢

おつまみを食べながら食べれば肝臓は大丈夫か?

肴をしっかり食べながら飲めば、肝臓は大丈夫か

これは、程度ものだとしか言いようがありません。いつも脂っぽい焼き鳥など高カロリーの肴をふんだんに食べながら飲む「酒飲みの下戸」、つまり、上戸の「ネギ・ミソ派」とは対照的な「焼き鳥派」の飲みかたはたしかに肝硬変にはなりにくいのですが、反対に慢性すい炎になりやすいのです。
すい臓は脂肪やたんぱく質を消化するすい液を出しています。大量の脂っぽい肴を食べると、すい臓に負担がかかりすぎて、ついには慢性すい炎になるのです。国内の慢性すい炎の方の5割以上がアルコール性のもので、当然ながら男性に多くなっています。

また、アルコール性すい炎は、普通のすい炎にくらべて、すい石など石灰化巣をもつものが多く、また糖尿病と合併する率が明らかに高いのでやっかいです。

慢性すい炎が再発をおこした急性期には、激痛のためショック死する人さえいます。つまり、慢性すい炎ですい臓に石ができていたりすると、化膿して急性すい炎をおこす場合があるのです。なにしろたんぱく質を消化するすい液が腹の中にもれるので、ものすごい激痛が襲ってきます。

その痛みは、ちょうど「背中に焼け火バシをつっこまれたように」と形容されるほどです。小腸内にすい液がでないので脂肪が消化されず、ギラギラした脂肪便がでます。便意をともなう腹痛発作であわてて病院のトイレにかけこんだものの、焼け火バシをつっこまれたような激痛で、トイレの中でショック死した人もいるほどです。このようなショックの例は急性すい炎の2~3割はあるということです。

また、小腸は胃から送られてきた栄養素を体内に吸収する重要な臓器ですが、その腸の粘膜はまっ先にアルコールに麻酔されるので、アルコール依存症の患者さんにはさまざまな栄養障害がおこります。しかも飲酒によって、胆汁やすい液など消化液の分泌が悪くなると、小腸や大腸の機能がおとろえて下痢が多くなります。

とくに大腸がアルコールで麻酔されると、便中の水分を再吸収することができなくなります。

ある方が長年の酒をやめました。「酒をやめて2~3日たったときに、20年ぶりで大きな固い便がでてビックリしました。あんなにまんまるで、黄色くりっばなやつは久しぶりでみました。酒を飲んでいたこの20年のあいだはいつも下痢便で、1日3回ぐらいグジャグジャした情けない便でした。人間って情けないもので、結果をみなければわからないのですね。このりっばな便をみて、私ははじめて、いままでがいかにアブノーマルな状態だったかよくわかりました」

俗に快眠、快食、快便といいます。彼は健康をとりもどした証拠として、黄色く、固い、りっばな便がでたことが、よほどうれしかったのでしょう。

しかし、酒をやめたあとに消化器系のはたらきがほんとうに回復して、体重がふえてくるには、半年から1年かかる方が多いようです。

糖尿病の合併

典型的な糖尿病の合併症

お酒と糖尿病の関係性

すい石をともなうような慢性すい炎では、約3割に糖尿病を合併する点が問題です。すい臓は血糖値を下げるインスリンをつくっているので、そのはたらきが低下すると、とうぜん、糖尿病がおこってくるのです。

また、慢性すい炎をおこしていなくても、肝障害や肥満による糖代謝の障害がおこるので、アルコール依存症の方は糖尿病を合併する率が高くなります。アルコール病棟入院時の方の約35%に高血糖があり、それが禁酒によって2週後には15% に減少します。

2週間の禁酒が脂肪値を半分に | 血管はもっと若返る
https://bloodvessel.biz/archives/113

したがって、アルコール外来を受診する方の15~20% が糖尿病の可能性大なのです。糖尿病が恐ろしいのは、全身のあらゆる血管がつまりやすくなるからです。心臓の血管がつまれば心筋梗塞、脳の血管がつまれば脳梗塞、眼底の血管がつまれば網膜変性症、腎臓の毛細血管がつまれば透析をうけねばならなくなるなど、恐ろしい合併症がえそたくさんあります。

また、足底の血管がつまって壊症をおこし、足首を切断しなくてはならなくなるケースもあるのです。糖尿病の方はカロリーを制限しながら、気長に食事療法をつづけなくてはなりません。お酒を飲むと、酒それ自体が高カロリーですので、この計算はメチャクチャになってしまいます。
おまけにアルコールはインスリンを生産するおおもとのすい臓をやっつけるのですから、糖尿病と診断されて酒をやめない人はダブル・パンチで自分のからだをいためつけている理屈になります。

「糖尿病には糖分の多いビールやワインはNGですが、ウィスキーならよい」という俗説を信じて、酒をやめない人も多いようです。しかし、どんなお酒であっても、アルコール1gは7kcalの熱量をもっています。お酒を飲んだら、その分だけ食事を減らさなくてはならないのです。医師の指導のもとに、まだインスリンは使用せず、食事療法だけですんでいる軽度の糖尿病の方あれば、3単位(ビール660ml、清酒二225ml、ウィスキー150ml)以下の以下のアルコールであれば認めようという、やさしい医師もいます。

このような、アルコール依存症と糖尿病とにくわしい先生の指導に忠実に従える方であれば、この程度のお酒は飲めるかもしれません。
しかし、酒を飲んで成人病になるような人は、とかく酒にたいしての欲求が人一倍強いものです。そうした人が、意志の座である大脳新皮質のブレーキをまっ先に麻酔させるアルコールの魔力に、はたして抗しうるものでしょうか。

とくに、インスリンの投与が必要な重症の糖尿病の方が飲酒することは、危険な低血糖発作をおこした場合に酩酊との区別がつかず、手当てが遅れて低酸素で脳がやられ、植物人間になることすらあるのです。

血糖値が高い人は飲み過ぎ、食べ過ぎの時だけ糖質カット酵母「パクパク酵母」くんを利用する方法もありますが、基本的に飲み過ぎをこの糖質カット酵母だけで処理するのは困難でしょう。

アルコール依存症で入院したことのあるような依存症の方になると、その半分がインスリン注射の必要がある人たちです。なかにはインスリン注射を打ち、そのあとごはんも食べずに酒を飲む方がいて、急死する例も多いのです。

特に、自制力にとぼしい方にはだんこ禁酒をすすめています。「おれはアルコール依存症ではないし、自分のからだのことはよくわかっているから大丈夫だ」と、糖尿病といわれながら酒を飲んでいるあなた。やがて心臓がとまる、目がつぶれる、足が腐りおちる、脳卒中になる、透析をうけねばならないと知れば、これだけ知れば、きっと今夜から酒がやめられるにちがいありません。

お酒と血圧

お酒と血圧の関係性

お酒と血圧の関係性はとてもわかりやすいものです

お酒を飲むと末梢血管がひろがって顔が真っ赤になったり、脈が速くなって心臓がどきどきするなどすぐに循環器に影響があらわれます。

飲酒によってはじめは血圧が下がりますが、その後は時期によって上がったり下がったり動揺します。1単位程度の少量の飲酒(ビール大びん1本、清酒なら1合、ウィスキーではダブル1杯) は、善玉コレステロールをふやして動脈硬化をふせぐ効果があり、ほかにも血小板の凝集を抑えて血栓をできにくくするはたらきがあります。
しかし、これはあくまでも1単位の少量の飲酒の場合で、念をいれて10単位以上も予防薬を召しあがるのは問題です。亜アルコール依存症の方は、入院時にその53% が高血圧になっています。入院して酒を断つとその80%で血圧が下がってきますが、ここでこまった問題がおこってきます。

酒が切れる離脱期には血小板数がふえ、その凝集能がたかまって血栓ができやすくなり、その結果、脳梗塞や心筋棟塞がおこりやすくなるのです。
とくに、アルコールは30代や40代で脳棟塞をおこす人の危険因子になりやすいといわれています。

たとえば、寒い北陸の地で出陣のたびに愛用の大盃を3杯傾けていた大酒豪の上杉謙信は、48歳のときに脳卒中で死亡しました。

以下は、アルコール依存症方の予後調査です。退院後の死因の第1位は肝硬変の27.8% ですが、2位で24.4% の心疾患と、4位で9.8% の脳卒中をプラスした循環系の病気の死亡率は、計34.2% とダントツです。また、日本ではは肝硬変による死亡率よりも脳棟塞による死亡率のほうが飲酒量の増加と深いかかわりをもっているといいます。

欧米のアルコール依存症は肝硬変で死亡する率が高いのですが、日本のアルコール依存症は脳卒中で死亡する率のほうがずっと高いのです

アルコール依存症の退院後の死亡統計
  • 肝硬変(27.8%)
  • 心疾患(24.4%)
  • 脳卒中(10.2%)
  • 事故(9.8%)
  • アルコール精神病(3.9%)
  • 食道ガン(3.4%)
  • 胃・十二指腸潰瘍(2.9%)
  • 胃ガン(2.4%)
  • 咽頭・喉頭ガン(2.4%)
  • 肺ガン(2.0%)
  • 肝ガン(2.0%)
  • 膵炎(1.0%)
  • 糖尿病(1.0%)
  • 肺炎(1.0%)

アルコール性心筋症

お酒を飲んで翌朝突然死するケース

心臓病とお酒の関係性

前の晩にこっそり酒を飲み、翌朝ふとんのなかで亡くなっているのを家人に発見される急死例が意外に多いのです。アルコール依存症には飲酒中や飲酒後の急死事故が多いのです。こうした急死例は、アルコール依存症の離脱期には血栓ができやすくなるので、心筋棟塞をおこすのであろうとか、あるいは飲みっばなしになるとひどいビタミンB1不足がおこるため、むかし脚気の主な死因だった脚気衝心とよばれる心不全がおこると考えられてきました。

しかし、栄養状態もよく、ビタミン投与をうけている大酒家にもこうした心不全はおこります。そこで、まれではありますが、アルコールで直接心筋がやられる「アルコール性心筋症」のあることがわかってきました。これは、ふだんは飲酒後に動悸や軽い息切れ、期外収縮を認めるくらいの軽い症状ですが、進行すると大酒後に突発性の呼吸困難の発作がおこり、急死する恐ろしい病気です。

多発性神経炎

そのほか突然死を招くお酒が原因で引き起こされる病気

その他の突然死

アルコールは、神経系のように脂肪に富んだ組織によくなじむ麻酔剤です。そこで、直接末梢神経をいためつける可能性があります。しかも、体内のアルコールを分解・排泄するためには、神経系の栄養剤であるビタミンB類(ビタミンB1、B2、B6 、ニコチン酸、パントテン酸、ビタミン12)をたくさん消費します。

したがって、ろくに栄養もとらずに飲みっばなしになっているようなアルコール依存症の方には、ビタミン欠乏による末梢神経炎のおこることが知られています。

事実、アルコール依存症で入院した350例中の約7% に末梢神経炎がみられました。この病気の病状は、両足のしびれ感にはじまる知覚障害から歩行障害へとすすみ、さらに進行すると上肢までもおかされて、ついには車イスが必要になる重症例も少なくありません。

たとえば、はじめは分厚いたびをはいたような知覚障害があり、スリッパがぬげやすいと訴えていました。そのうちにハシゴから落ちるようになって足場をつかう仕事ができなくなり、ついにはみえない手袋をはめているように手先の感覚までがなくなって、細かい仕事ができなくなりました。

断酒してビタミン剤を大量にのんだ結果、1半年もすると上肢の感覚障害はなくなりましたが、下肢の知覚・運動障害は残り、また下肢の痛みをともなう異常感覚はどうしてもとれませんでした。

この方は一度でこりて断酒しましたが、アルコール外来を受診するのが遅れたので、末梢神経炎は残ってしまいました。飲みだすととまらないアルコール依存症の方のなかには、こうしたエピソードを何回もくり返して、ついには松葉杖から車イスになるケースもまれではありません。

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