アルコール依存症までの道のり

アルコール依存症 自己診断

アルコール依存症の自己診断表

自分がアルコール依存症になっているのに自覚がない人が多い

自分でアルコール依存症かどうかを客観的に判断できる診断表

ある推計の調査で、日本には1日に清酒換算で5合以上のアルコールを週4日以上飲んでいる大量飲酒者が200万人以上もおり、その大半がアルコール依存症やアルコール依存症と考えられています。

しかし、毎日5合以上の酒を飲みながら、からだになにも異常がなく、きちんと会社に勤め、家庭にも特に波風の立たない、たんなる「大酒飲み」にすぎぬ人もいます。

このいわゆる「大酒飲み」と「アルコール依存症」とは、どこがちがうのでしょうか。相違点のひとつは、「大酒飲み」はいつでも酒がやめられるのに、「アルコール依存症」は、からだに悪いとわかっていてもどうしても酒がやめられないという、「酒に飲まれている」状態にあることでしょう。

しかし、これとて十分な説明ではありません。なぜなら、ある期間は1滴も飲まないのに、いったん飲みはじめると1週間から10日以上も飲みつづけ、ついには倒れてしまうという型のアルコール依存症があるからです。この「連続飲酒発作」こそアルコール存症の本質であると考えられています。

精神科医がその人をアルコール依存症と診断する基準は、きわめて社会的なものです。つまり、「朝から仕事を休んで酒を飲む」という状態がつづくようになれば、まず依存症であると考えてきたのです。しかし国によって飲酒の習慣はちがうため、この日本の定義は、日中から食事どきにワインを飲むフランスにはあてはまりません。

反対に、わが国を訪れた西欧の精神科医たちは、クリスマスイブの街頭でくりひろげられる酔態をみると、日本はなんとアルコール依存症の多い国かと驚きます。

つまりは、公共酩酊罪まである西欧社会と、酔っぱらい天国のわが国との飲酒文化のちがいがあるのでしょう。

神経症タイプ向きの自己診断表

自分がアルコール依存症かどうか心配なとき、自己診断をする方法はいくつかあります。たとえば、「アルコール依存症になりやすい性格」にもありますが、「アル中自己診断表」は、精神的な不適応から酒に逃避するタイプのアルコール依存症によくあてはまるスクリーニングテストです。

アル中自己診断表

  • 酒を飲んで仕事をさぼることがある
  • 飲ん家庭に波風が立つことがある
  • 飲んで人から不評をかう
  • 飲んだ後で深く公開する
  • 毎日、同じ時間に飲みたくなる
  • 飲まないと眠れない
  • 翌朝にまた飲みたくなる
  • 外でひとりでも飲む
  • 飲むと家庭のことに無関心になる
  • 酒が原因で経済的危機に陥ったことがある
  • おじけを除くために飲む
  • 自信をつけるために飲む
  • 不安から逃れるために飲む
  • 飲むと友人を見下したくなる
  • 飲むと仕事の能率がかなり低下する
  • 飲むと向上心がなくなってしまう
  • 飲んで完全に記憶を失ったことがある
  • 飲んで仕事上のミスをしたことがある
  • 飲んで医者にかかったことがある
  • 酒のために入院したことがある

アルコール依存症の場合、飲みたい一心から、自分がもう酒が飲めないからだになっていることをがんとして認めません。まして、自分が精神病院に入院しなくてはならないアルコール依存症だなどとは、死んでも認めようとしません。

事実、ある病院(アルコール依存症専門病院)のアルコール外来を受診する方の6割までもが、自分が依存症にかかっていることを否定します。

このように、家族につれられてしぶしぶ精神科医の前にあらわれるアルコール依存症の人の大半は、自分がアルコール依存症だとは思っていません。はなはだしいケースでは、過去に酒を断つために精神病院に入院したことがあり、おまけに幻覚などの禁断症状を経験した人でさ、え、自分がアルコール依存症であることをだんこ否定する場合があるのです。

したがって、アルコール依存症治療の第一歩は、本人にアルコール依存症であることを認めさせる「病識」をもってもらう作業からはじまるといえます。この病識をもってもらうために、「アル中自己診断表」にマルをつけてもらうのは、同時にアルコール依存症の理解をも探めるよい方法です。

あなたはいくつマルがつくでしょうか。わが国にあてはめると、マルが4~6個つくと、アル中であるとされています。しかし、アルコール依存症の方は内輪に申告することが多く、本人は2つぐらいしかマルをつけません。この場合、つき添ってきた奥さんにつけてもらうと、10個以上もマルがつくという光景がよくみられます。
アルコール依存症の方んには謙虚な人が多いのです。

アルコール依存症スクリーニングテスト

以下の「アルコール依存症スクリーニングテスト」は、まずからだの症状から患者さんに接するようになっており、内科医側にもつかいやすいテストです。自己診断の評価などについては、以下を参考にしてください。

酒が原因で人間関係にヒビがはいった
  • はい(3.7)
  • いいえ(-1.1)
今日だけは飲むまいと思っても飲んでしまう
  • はい(3.2)
  • いいえ(-1.1)
周囲の人から大酒のみと避難された
  • はい(2.3)
  • いいえ(-0.8)
適量でやめようと思ってもつい酔いつぶれるまで飲んでしまう
  • はい(2.2)
  • いいえ(-0.7)
翌朝、前夜の記憶がところどころない
  • 時々ある(2.1)
  • いいえ(-0.7)
休日は朝から飲む
  • はい(1.7)
  • いいえ(-0.4)
二日酔いで欠勤したり、大事な約束を守らない
  • はい(1.5)
  • いいえ(-0.5)
糖尿病、肝臓病、心臓病と診断された
  • はい(1.2)
  • いいえ(-0.2)
酒がきれると、発汗、手の震え、イライラや不眠で苦しむ
  • はい(0.8)
  • いいえ(-0.2)
仕事上の必要で飲む
  • はい(0.7)
  • いいえ(-0.2)
酒を飲まないと傷つけないことが多い
  • はい(0.7)
  • いいえ(-0.1)
ほとんどの毎日清酒3合(ビールは大瓶3本)以上の晩酌をする
  • はい(0.5)
  • いいえ(0)
酒の失敗で警察沙汰になったことがある
  • はい(0.5)
  • いいえ(0)
酔うと怒りっぽくなる
  • はい(0.1)
  • いいえ(0)

点数診断

  • 2点以上(重篤問題飲酒群)
  • 2~0点(問題飲酒群)
  • 0~-5点(問題飲酒予備群)
  • ~-5点(正常飲酒群)

アルコール依存症のときの受診先

アル中自己診断表やアルコール依存症スクリーニングテストで自分がアルコール依存症だったときは

まずは内科医の受診でいいのか?

アルコール依存症の方は、ほとんどの場合、精神科医の外来にあらわれる前に、内科や外科の医師にかかっています。たしかに、アルコール性肝炎などの「からだのアル中」程度の人は、まず内科医や外科医によって「アルコール依存症」の断酒指導がうけられれば最適です。

しかし、酒飲みは自分の酒量を減らすことに強い抵抗があるので、「すこしならいいでしょう」といってくれる医師に会うまで、病院めぐりをする傾向があります。これではなんにもなりません。信頼できる医師をみつけたら、受診しつづけることを第一にしてください。

アルコール性肝硬変への第1段階は、肝細胞のなかにべったりと脂肪滴がつく「脂肪肝しですが、血清酵素検査のなかで慢性期に増量するγ・GTP活性の上昇がこの脂肪肝発生のよいめやすになります。

GOT、GPTが高い、さらに値が不安定ならシジミ(使用感、効果)
https://record-p.com/gotgpt/

健康な成人に実験的に、1日1.2升の大量の清酒を2日間、その半量の毎旦6合なら8日間つづけて飲ませると、脂肪肝が確実に生じます。
このとき、急性期に血中に増量するGOTは軽度に上昇しますが、もう1つのGPTは正常範囲のことが多いのです。しかし、2週間禁酒するとγ-G TP はほとんど正常値までもどります。

2週間の禁酒が脂肪値を半分に
https://bloodvessel.biz/archives/113

もっとも、まだこの段階では肝細胞に脂肪滴が残っており、脂肪滴が完全に消えるにはなお数週を要するとされています。

酒飲みは、内心では肝機能の数値をいつも気にしています。そんな人にとって、このγ-GTP値の低下は断酒をつづけるうえでなによりのはげみになるようです。

この2週間の禁酒すらまもれないグループには、断酒会への参加や精神科医への受診をすすめているそうです。アルコール依存症がすすんで、しばしば問題行動をおこすようになったら、やはり手なれた精神科医を受診したほうがよいでしょう。

大量飲酒と問題行動の関係

お酒を毎日飲んでも問題行動がない人もいる

問題行動を起こさなくてもアルコール依存症に該当するのか

毎日5合以上の酒を飲んでいる人を「大量飲酒者」とよびますが、厚生労働省はこの大量飲酒者をアルコール依存症に近い存在とみなしています。

これにはちゃんとした根拠があるのです。禁断症状までおこして精神科医から「アルコール依存症」とのお墓付きをいただくには、さまざまな段階を通らなくてはなりません。

まず新入生コンパなどで生まれてはじめて酒を口にする「初飲期」から、毎週1回以上定期的にお酒を飲むようになる「習慣性飲酒期」を通り、さらに清酒換算で1日5合以上のお酒を週4日以上飲むようになる「大量飲酒期」をへて、アルコール依存症と診断されると「アル中双六」は上がりとなります。

厚生労働省が重視している「大量飲酒者」は、すでにアルコール依存症の方とかわらない問題行動の発生率を示していることがよくわかると思います。保健所に酒害相談にくるケースは、とうぜん、一般内科外来を受診するケースよりもこじれて手のかかる事例が多いわけです。これらのケースでは、警察に保護されるなどの社会的問題行動、無断欠勤などの職場的問題行動、家族解体につながる家庭的問題行動などのどれひとつをとっても、大量飲酒段階ですでにはっきりと表にあらわれています。

依存症であると診断された時期の問題行動とくらべて、その質も頻度もまったくかわらないことがおわかりいただけるでしょう。しかも、この大量飲酒段階からわずか4年以内に依存症に移行している事例が、4割弱もあるのです。大量飲酒の段階からほんものの依存症になるまでの期間は、思ったよりも早く、それをストップするのは専門の精神科医でもなかなかむずかしいのです。

これがまた、アルコール依存症の恐ろしいところです。ご質問の静かな大量飲酒者の場合でも、いつかは飲酒による欠勤などの職業的不適応をおこし、やがて家族への暴力などの家庭的問題行動や警察保護という社会的問題行動をしばしばくり返す依存症の患者さんへと変身していきます。
ついには家庭崩壊や失職にまでいたるのが、アルコール依存症の本質なのです。したがって、大量飲酒者で、問題行動が最近ふえてきた場合には、早めに専門の精神科医を受診してアルコール依存症の治療をはじめる必要がありますし、まだなにも問題行動がないとしても、将来を考えれば、お酒をひかえてもらうべきです。

なりやすい性格 デリケートで、ほんとうは自分の欠点に敏感

依存症になりやすい性格

依存症になりやすい性格の場合、事前に注意することも必要です。

毎日、大量にお酒を飲んでいるのにアルコール依存症にならない人となる人の違い

動物実験の結果からは、四六時中大量のアルコールをあたえれば、だれでもがアルコール依存症に陥ることになります。しかし、人間の場合、実際にはいくら大酒を飲んでも依存症にならぬ人があり、たいした量でもないのに依存症になる人がいます。

では、アルコール依存症になりやすい人格や性格の傾向はあるのでしょうか。日本のアルコール依存症の断酒会員も、「心の誓い」のなかで、まず自分の酒への逃避傾向を認めて改善を誓っているのですが、精神分析の本場のアメリカでは、アルコール依存は現実の社会に適応できず、飲酒によって幼児期に過行して現実から逃避をはかるというパターンで説明されています。

その説明としては乳児期の口唇愛傾向を強調するものと、幼児期の潜在性同性愛傾向を指摘する学派とがあります。
このうち、口唇愛傾向とは、わかりやすく説明すると、アルコール依存症になりやすい人には自我が未発達で甘えん坊、依頼心が強く、情緒的にも不安定な「依存的人格」の人が多く、まるでほ乳瓶をくわえてすやすや寝込んでいる赤ん坊のようにウィスキーのボトルにしがみつくという学説です。

アルコール依存症の方が酒におぼれる理由は、人によってさまざまです。こうしたみかたが一部はあてはまるとしても、すべてを説明できる学説ではありません。

また心理テストによって、一定の性格傾向をもとめた研究も多いのですが、アルコール依存症になりやすい依存的性格として特別にこれといったものはでてこないといえます。

悲しいお酒の問題点

悲しみを紛らわすために飲むお酒にはさまざまな問題点を抱えています

悲しみを紛らわすお酒は、楽しいお酒より依存症になりやすい

女性には、夫との離婚や死別など、愛する対象を喪失した心のいたでを酒でまぎらわしているうちに依存になってしまう人が少なくないようです。これは対象喪失の「悲しい酒」の典型です。

「ひとり酒場で飲む酒は別れ涙の味がする」
この歌を絶唱するたびに涙を流していた美空ひばりは、離婚にはじまり、つぎつぎに肉親をなくすという悲運にみまわれました。
最愛の対象を失うことを、精神分析学では「対象喪失体験」というのですがこうした悲痛な体験をなんとかまぎらすために深酒に走る人は多いのです。

酔うほどに、もうろうとして気持ちもすこしはらくになり、酔いつぶれて寝こんでいる時間だけは悲しみを確実に忘れることができます。

美空ひばりは毎夜ブランデーや焼酎をあけるようになって命を縮め、「三人娘」のもう1人、江利チエミも離楯の傷心から立ちなおれずに孤独の死をとげました。

女性のアルコール依存症の方に行ったアンケート調査をみても、女性では、男性のアルコール依存症にくらべて自律神経失調や神経症傾向、抑うつ傾向、ほかの薬物依存の合併症などが明らかに多くなっています。
また飲酒パターンとしては、男性アルコール依存症の方のほとんどが20代までに酒を覚えるのにたいし、女性では30歳以上の初飲年齢が4分の1以上いました。

最近は、みるからに気の強そうなタレントがCMで「女性にビール、もう常識でしょう」と怒ったようにいう時代になりましたが、この調査の行われたころは女性の社交的飲酒は少なく、精神的ショックから酒に走る場合が多かったのです。つまり、女性の酒はおくてで、楽しい酒よりも悲しい酒であり、心のいたみを晴らすための精神安定剤がわりにお酒をガブ飲みする結果、アルコール依存症になるという状況でした。

最近のヤングの飲酒人口の男女比は完全に1対1になり、いまや週末の都心の居酒屋は若いOLたちに占領されて、若い男性サラリーマンはスミのほうで小さくなっています。

結婚難も男性のほうが深刻ですし、失恋でメソメソするのも若い男です。「悲しい酒」は男のものになったのかもしれません。男性は、アルコール依存症にならぬように気をつけたほうがよいでしょう。卑弥呼の時代から、倭人は葬式で酔い泣きしていました。人は耐えがたい心のいたでを酒でまぎらしますが、長期間アルコールに依存するのは危険なのです。

危険な飲みかたのいろいろ

神経を使う仕事をしている人は依存症になりやすいとの報告

依存症になりやすい危険な飲酒パターン

「ノミニケーション」とかいって、とかくサラリーマンには接待酒、つき合い酒が欠かせません。

かつて、やるせなさそうな真顔をとたんに愛想笑いに切り換えるCMがありましたが、自分を殺して飲む酒のホロ苦さが、宮仕えの身にいたくしみたからでしょう。
また、秒きざみでビリビリ神経をはりつめているテレビ関係者も、いきおい番組が終わると夜の街にくりだすことになりがちですが、これは、公演の打上げに役者高が乱痴気騒ぎをするのとおなじ心理でしょうか。

こうして芸能人やマスコミ関係者にお酒の強い人が多くなるのですが、与太郎を演じながら客の笑いばかりを気にしている落語家も、おなじくストレスの多い商売の代表です。気をつかいすぎて神経性脱毛症になった圓蔵師匠や、突拍子もない奇行で発散していた故林家三平師匠は有名ですが、彼らの気づかいや奇行も商業上のサービス精神と結びついていて、どこまでがつくりで、どこまでが地なのか、本人にもわからなくなっている気味もあったようです。

大喜利で毒舌とキザを売りものにしていた小円遊師匠も、肝硬変で若死にしました。がんらいが小心な照れ屋なのに、正反対のポーズをとるのですから、酒でごまかさねば神経がもたなかったのではないでしょうか。

長いあいだアルコール依存症の人とつき合っていると、彼らには洒の力」借りねば文句のひとつもいえぬという、対人恐怖症的な人が多いことに気づかされます。テレビ対談などを聞いていると、青年期の対人恐怖症を克服して演技派とよばれるようになった名優も少なくないようですが、このような積極的な姿勢をとらず、いたずらに酒に逃避しているのは、あぶない飲みかたなのです。

自虐的な酒も危険
すっかりサラリーマン化した現代の流行作家とちがって、私小説を書いていた戦前の文士のなかには後年アルコール依存症になった人がたくさんいました。

梅崎春生は、酒の入手が困難だった戦時中にも酒を欠かさず、肝硬変で禁酒を命じられていながら飲みつづけました。「火宅の人」を書いた無頼作家檀一雄も、自己嫌悪にさいなまれながら酒と愛欲との自分の生活を材料にペンをとる、すさまじい生きかたをした人です。

情緒不安を静めるトランキライザーがわりに酒を飲むタイプが少なくありません。

破滅型作家の代表の太宰治も、錠剤をガリガリかじりながら自虐的な酒におぼれました。飲むと「恥ずかしい」が口癖で、自殺未遂をくり返したすえに、玉川上水で心中自殺をとげました。

大正から昭和にかけての私小説作家は、自分自身を材料に掘り下げるので、つい苦しくなって酒に逃げたものでしょう。精神分析医となるために、みずから患者となってスーパーバイザーの教育分析をうける訓練がありますが、このようなときに自分の欠点ともろに対決させられてうつ状態になることがよくあります。これも似た状態といえそうです。人間には自尊心があって、自分の欠点はなるべく意識しないようにしています。だからこそ精神衛生がたもたれているのです。

アルコール依存症になる人は、デリケートで、ほんとうは自分の欠点に敏感で、自分のその情けなさが許せないから酒を飲むのでしょう。自分の欠点と適当に折りあえる人のほうが適応もよく、アルコール依存症にならずにすむのかもしれません。

アルコール依存症に至るまで

アルコール依存症、アルコール中毒とは

アルコールに関連する病気のそれぞれの特徴

アルコール依存症とアルコール中毒の違い

アルコール依存症とはすでに心理的・身体的依存におちいっている段階であり、心理的依存で身体的合併症をおこしているものをいいます。以前は2つを区別せずに 慢性アルコール依存症 、俗に「 アル中 」と呼んでいました。
また戦前では、アル中や麻薬中毒の状態を総称して「薬物嗜癖」と呼んでいて、「薬物嗜癖」とは、習慣性をきたしやすい麻薬などの薬物をくり返し用いているうちに、

  1. しだいに増量しないと効かなくなり( 耐性獲得の段階 )
  2. そのくすりを得るためには犯罪も辞さぬという強烈な欲求を生じ( 心理的依存の段階 )
  3. くすりを断つと激烈な禁断症状がでる( 身体的依存の段階 )

へと、段階的にすすんでいく病気であると考えられていました。
そして、ヘロインのような麻薬だけが、心理的・身体的依存をおこすとされていました。

薬品名 心理的
依存
身体的
依存
耐性
獲得
モルフィネ型 モルフィネ、ヘロイン、生アヘン、合成麻薬、コカイン 4 4 4
バルビタール型 コカイン、クラック 3
大麻型 マリファナ、カンナビス、ハッシッシュ 2
アンフェタミン型 覚醒剤(ヒロポン)、ぜんそく剤、やせ薬 3 2
カート型 東アフリカ産の植物で覚醒剤類似作用をもつ 2 1?
幻覚剤型 LSD、STP、シンナー、サイロシピン、大麻 2 +?

しかし、終戦直後の覚せい剤の流行にはじまって、その後、睡眠剤から精神安定剤、幻覚剤などさまざまな薬物が嗜癖の対象になってきたのです。このなかには、身体的依存をおこさない習慣性の薬物も含まれています。
しかも、麻薬のなかにもコカインのように禁断症状のないものがありますし、反対に嗜癖品であるアルコールが麻薬にも劣らぬ激烈な禁断症状をおこすなどの矛盾が明らかになってきました。

したがって、現在ではこれらの嗜癖性薬物や習慣性薬物のすべてを含む広い概念として「 薬物依存 」という用語が用いられ、禁断症状は「 離脱症候群 」もしくは「 退薬症候群 」と呼ばれるようになっています。

依存症の前段階

依存症になる前の段階のサイン

健康飲酒からアルコール依存症になるとき、その前段階のサイン

アルコールを飲みつづけていると、飲む量の増える時期がやってきます。「手が上がった」などと喜んでいる人がいますが、これが依存症への第一歩、「耐性獲得」の段階で睡眠剤や精神安定剤にくらべて、なのです。アルコールは、この耐性獲得の最もおこりにくい薬剤です。アルコールが優秀な睡眠剤であるというのは、この意味です。

しかし、夕方になってネオンがつくとそわそわし、帰宅の途中で飲み屋に立ちよらねば気持ちがおちつかないようになれば、立派な「心理的依存症」の段階でしょう。

こうして、夜の酒をうまく飲むために昼食をそばだけにして腹を空かせておくなど、万事がお酒中心にまわりはじめ、そうした生活を十数年もつづけていると、ついにはからだがアルコール分なしには働かない「身体的依存」の段階へと突入します。
身体依存をおこすまでの期間は、飲みかたや個人差でちがいますが、毎日5合以上の大量のアルコールを飲みつづけた場合、五年から10年で禁断症状が怒るようになります。

このような大酒家が、虫垂炎などにかかって外科病棟に入院した場合、その晩から一睡もできず、3日めの夜からは恐ろしい幻覚が襲う「振戦せんもう」という代表的な禁断症状がおこってきます。これは、いままでアルコールで飽和されていた大脳におこる激烈な失調症なのです。

アルコール依存症とは、じつのところ「脳のアルコール依存症」ということになるのですが、飲酒によって、大脳だけでなく肝臓や膵臓、心臓など多くの臓器にも障害がおこってきます。アルコールはこのように多くの内臓をまきこむ病気をつくるというのが、「アルコール依存症」の概念なのです。
つまり、アルコール依存症が「脳のアルコール依存症」だとすれば、アルコール依存症とはアルコール関連性成人病、つまり「からだのアルコール依存症」と考えてよいでしょう。