2020年 1月 の投稿一覧

欲望充足法が成功した3つの回復例

脱ギャンブル「名誉欲の充足」

Aさん:60歳女性、パート勤務、長男と二人暮らし。

Aさんは高校卒業後に結婚。専業主婦として2人の子どもを育ててきました。15年前に夫が病死したものの、保険金などで生活は安定していました。

はじめてギャンブルをしたのは1年前でした。友人らと馬券の共同購入をはじめたのですが、損失のはうが多い状況でした。最近は、個人購入をはじめ、損失額は250万円を超えるまでに膨らみました。

長男からも借金をするようになり、家族にすすめられて精神科を受診。

Aさんは当初、「競馬は老後の生活資金を増やすための投資なので、やめるつもりはないと病院治療に対して否定的でした。これだけ聞くとギャンブルを続けている動機は「金銭欲」ということになります。

でも、「競馬で250万円も摂していますよ。それでもお金のために競馬を続けますか? 」といった質問を重ねてみると、「お金を増やして、まわりの人たちを助けたい」という救済願望が現れてきました。

Aさんと話しているうちに、この救済願望は一種の「お世話欲」であり、その根底には「名誉欲」が潜んでいることがわかりました。

その名誉欲を充足させる手段として、間接的である競馬投資をやめて、欲望を直接的に満たしてくれる行為に専念することを提案。その結果、パート先の同僚やお客さんの世話に励むようになり、その後、競馬はやっていません。

脱ギャンブル「現実逃避欲の充足」

Bさん:30歳代男性、無職、両親と3人事らし
対人緊張が強くて、内向的な性格のBさん。高校時代に不登校となった経験の持ち主です。祖父に連れられてパチンコをやりはじめたのが数年前です。すぐに毎日通うようになりました。当初は勝つことが多かったのですが、ほどなく損失が上まわるようになりました。

それでも損失は小遣いの範囲内に留まっていたので大きな問題にはなりませんでした。この前後から精神科クリニックに通院。「操うつ病」と診断され、薬を飲むようになりました。その間、アルバイトと睡眠以外は、パチンコをする日々を送ります。

その後、インターネットで競艇をはじめるようになり、最終的には借金が100万円を超えて返済不能に陥りました。自殺目的で睡眠剤を過量服用したため、家族に連れられて精神科を受診。「双極性障害Ⅱ型」が併存していました。双極性障害Ⅱ 型とはいわゆる操うつ病であり、Ⅰ型と比べてⅡ型はコントロールが難しいとされています。

また失敗を恐れるあまり、他人との交流や挑戦を避ける回避傾向がありました。ギャンブルの動機としては「借金を返すためにレートの高い競艇をはじめた」と本人は答えましたが、その根底には「当たっても冷めていた」「ただ現実から離れられることが喜び」という現実逃避欲があることがわかりました。

そこで現実逃避欲を満たす睡眠誘引力を高めるため、入浴およびサウナ、適量の飲酒を利用しました。さらに疲労で眠りを誘導するために、アルバイトと趣味の自動二輪のツーリングを再開。

これらによりパチンコと競艇をやめています。本人は、これらを「面白くない日常からの寝逃げ法」と表現して実践しています。

脱ギャンブル「母親からの許しの実感」

Cさん:60歳代女性、無職、単身
負けん気が強く、意地っ張りな性格のCさん。実父に酒乱癖があり、本人への暴言もあったようです。中学校卒業後に家出。

以来、20歳代前半で結婚するまで、実家との交流を断っていました。結婚後、二児をもうけたものの、40歳代で離婚しました。

およそ20 年前から、気晴らしのために小遣いの範囲でパチンコをしていました。母親が亡くなってからは、パチンコに通う頻度と投資額が急増。負けると長男や親戚に当たり散らした挙げ句、「死にたい」と脅して借金を繰り返しました。

その後、借金総額が300万円となって自己破産。その後、自傷行為を起こして精神科クリニックを受診。「うつ病」と診断され、投薬を受けるようになります。

生活保護の受給を開始しましたが、ギャンブルでの借金と情緒不安定が続いたため、精神科を受診しました。「非内因性うつ病」が併存していました。ギャンブルの動機としては「何も考えなくていいから」と現実逃避が主でした。

そして「母を入院させたために死期を早めた」という罪悪感から逃れるためにパチンコにのめり込んだ背景もわかりました。
所見としては、父親への敵視と母親の過剰な理想化、そして母親の介護を苦痛に感じて秘かに死を望んでいたことへの否認など、母親に対する相反する感情(両価性)が見受けられました。そこで欲望充足法に基づく介入に先行して「自分を許すこと=母親から許されること」を目標にカウンセリングを実施。

同時に抗うつ薬の投与など、薬物療法も続けました。Cさんはカウンセリングの結果、「母はとっくに自分を許してくれていた」ことに気づくなど、自己への洞察が徐々に深まり、現在では気分転換としてパチンコの代わりにカラオケを楽しんでいます。ここでCさんに対して実施したカウンセリングには、後述する内観療法の技術を利用しました。

非内因性うつに薬は効きにくい

欲望がはっきりしないのに自分探しをしても、なにかが見つかるわけがありません。
「これは自分には合わない」「これもなにか違う」ミスマッチを繰り返していると誰
でも気分がうつうつとします。そうやって「ネガティブ思考になる」「朝起きられない」
という状況に陥ります。

そういう状態で精神科クリニックを受診して、「仕事がつらいです」「なにをしても
張り合いを感じられません」などと訴えると、「それはうつ病だから、薬を飲んで2
ヶ月くらい休みましょう」などと診断されます。
医師から診断書を書いてもらい、いったん休養すると復活したように思えます。

そして、今度こそ自分の好きなことをやろうと張り切って自分探しをはじめるのですが、
再び生きる目的が見当たらないという課題にぶつかります。

そして2ヶ月ほどたつと、また気分がうつうつとしてきて、精神科クリニックに逆戻り。病気療養継続2ヶ月という診断書をもらう… 。

この繰り返しで非内因性うつが形成されていきます。非内因性うつは、うつ病の薬を飲んでも、内因性うつのような効果はありません。

非内因うつでも脳のエネルギーは減っていますが、それは自分探しをしてもやりたいことが見つからないから結果的に落ちているだけ。

脳のエネルギーの涸渇がうつ病発症の本当の原因ではなく、欲望がはっきりしないことが原因なのです。

医師もうつ病と診断した以上は治療薬を出さないと格好がつきませんが、抗うつ薬は一度飲み出すとやめにくく、いまあちこちで問題になっています。

効果が出るまでに一定の時間がかかる – うつ病

複雑な「非内因性うつ」が増えている

無気力な若者たちに多い将来展望喪失型には、うつ病も含まれています。うつ病には、大別して「内因性うつ病」と「非内因性うつ病」の2 つがあります。

「内因性うつ」という従来型のうつ病は、脳のエネルギーがダウンして意欲が低下した状態です。クルマでいうならガソリンが不足しているだけのことです。そのため内因性うつは、かつての結核と同じように一定期間療養すれば、別に薬を飲まなくても治ります。食べて寝てゴロゴロしていれば、脳のエネルギーが補給されるからです。

ここでいうエネルギーとは、糖質や脂質といったいわゆるエネルギー物質ではなく、「セロトニン」や「ドーパミン」といった脳内の神経伝達物質のことです。

加えて現代にはセロトニンを増やす「SSRI」などのうつ病の薬があります。これを1〜2 カ月摂取して一気に神経伝達物質を増やせばより早く治ってしまいます。

セロトニン濃度を高めるSSRI – うつ病

ですから、内因性うつを発症してしまったら病気療養が必要であるという診断書を医師からもらって会社の人事部に提出。

薬を飲みながら2ヶ月はどゴロゴロして、好きな映画でも観て休んでいればス〜ツと気分が楽になり、元気に職場復帰することができます。

一方、やっかいなのが「非内因性うつ」です。「現代型うつ」「実存うつ」などとも呼ばれています。このタイプのうつは、ギャンブル依存症以上に生きる意味を見失い、自分の欲望の充足法がわからなくなっていることが特徴です。

よく見受けられるのは、まわりに流されたり親にいわれたりして有名大学を出て大企業に勤めているというタイプの人。こういう人は、ちょっと壁にぶつかると「なにか違う… 。自分の生きる意味は他にあるのではないか」などと考えたりして、「自分探し」という恐ろしいワナにはまります。それが非内因性うつを発症するきっかけ
となるのです。