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自閉型には心地よい行為と場所

非自閉型は「なんのためにギャンブルをしたいのか」という動因が明らかでしたが、自閉型はこれと対称的です。「(勝ちたいという欲求がなく) ただパチンコにお金をつぎ込むだけのロボットだった」「1日ぼんやりと過ごせることに安らぎを感じる」といったコメントに表れているように、なんのためにギャンブルをするかが不明確なのです。

「ストレス解消のため」といった最初のきっかけは確かにあるのですが、依存症が進行するにつれてギャンブルをする動機がはっきりしなくなってくるのです。自閉型は、ギャンブルを好んでやっているという「自己所属感」が希薄であり、どのような心理がギャンブルへ駆り立てるのかがはっきりしません。

したがって本来充足すべき欲望がなかなか見つかりません。そこで自閉的な気質に目を向けます。自閉的な気質には「社会性の障害」「コミュニケーションの障害」「反復性行動傾向と興味の限定」という3つの側面があります。

なかでも変化を嫌う反復性行動傾向は、社会性やコミュニケーションの障害と比べると社会経験をへても改善する可能性が低く、成人になっても残りやすいです。したがってギャンブルをする習慣であれ、しない習慣であれ、ある種の習慣が身に付くとパターン化、固定化しやい特徴があります。

自閉的な気質による生活のパターン化は「単車線認知パターン」でより具体的に説明できます。単車線認知パターンとは、あるものに注意が向いているときには他の刺激に対して反応を示さないというものです。ギャンブルという行為とギャンブルをする場所は、いかにして賭けに勝つかというひとつの目的と刺激に支配されています。

自閉的な気質の持ち主は、いろいろな刺激から自分が好む刺激を選ぶことを強いられるのが苦手ですから、単一の目的と刺激で満たされているギャンブルは、心地よい行為であり心地よい場所なのです。ギャンブルのなかでも競馬や競輪、カジノのように複雑な情報処理が求められる戦略的ギヤンブリングよりも、パチンコやスロットのように単純化された非戦略的ギヤンブリングのほうが、自閉的な気質の持ち主には親しみやすいといえます。

内観療法を利用した3つのアドバイス

内観療法に限らず精神療法の基本は、治療者の世界観を患者に押しつけることなく、患者の言葉にひたすら耳を傾けることです。
ただし、ただ耳を傾けるだけでは、回復に導けない場合があります。そのときに有効なのが、次の3つのアドバイスです。

1. 「感謝と謝罪を伝えること」を回復の指標とする
まずはギャンブル依存症によって迷惑をかけた両親や伴侶、親類縁者、友達など、本人にとって気がかりな相手(キーパソン)を対象に、前項の3項目、特に「1してもらったこと」を思い出してもらいます。
その際、患者は言い訳や恨みつらみ、後悔などを盛んに訴えかけてきますが、これらは1回聞けば十分です。次に「1してもらったこと」への「お返し」、それに「3迷惑をかけたこと」への「埋め合わせ」を考えてもらいます。すぐに行動に移す必要はなく、「ありがとう」や「ごめんなさい」をいう準備をしておくだけで十分です。
重要なのは、ギャンブルの回数や損金を減らすことではありません。むしろまだできていない「お返し」や「埋め合わせ」を含めた“人生の借金”、つまり「ありがとう」や「ごめんなさい」を伝える機会が多ければ多いほど、生き甲斐(生きる意味) があると気づいてもらうことです。断ギャンブルに成功したときの喜びも、再びギャンブルをはじめてしまったときの挫折感も一時的なものです。それよりも「ありがとう」や「ごめんなさい」を、そのチャンスがあるときに伝えることのほうが長期的な回復力につながるのです。
2. 「法的な借金返済の有無」と「回復」は無関係なことを強調
大前提として借金の返済義務に関する判断は司法の領域であり、医療が立ち入る領域ではありません( ただし法律相談の利用は積極的にすすめます)。
ギャンブル依存症のなかには、多額の借金を返済できる自らの「返済能力」に特別な価値を感じ、固執していているケースがあります。これは非自閉型に特有の罪悪感に対する反動形成です。この返済能力への固執に自己責任論が結びつくと、借金問題を一刻でも早く片づけたいと焦り、余暇を削ってアルバイトに精を出したり、生活費を削って耐乏生活をしたりします。
そのストレスで徒労感や虚無感を覚えると、そこから救済されるためにギャンブルに救いを求めるケースが少なくありません。万一借金が完済できたとしても、それはそれで自己返済能力の過信につながり、再びギャンブルに走るケースもあります。
多額の借金があって返済不能である場合には、その事実を素直に認めるしかありません。そのとき返済不能に陥ったことと本人の人間的な価値は無関係であると強調することが必要です。
貸し主から法的責任を求められた場合には、司法から返済能力に関する法的判断を受けた後、淡々と法的責務を果たすように伝えます。
3. 罪悪感の緩和が最優先
「あそこでやめておけばよかった…」という後悔、「ギャンブルがやめられない自分は、破滅して当然の人間だ」といった罪悪感が増すにつれて、自虐的に再びギャンブルに走るようになる人も大勢います。そういうタイプには、はじめにギャンブルとの深い緑に感謝してもらいます。
そのために「あなたの人生はギャンブルによって支えられてきたし、いまも支えられています。ギャンブルに出会えてよかったんですよ」とギャンブルに「してもらったこと」を伝えます。そのうえで「あなたはギャンブル欲求が強い体質であり、子どものころの親子関係やその後の社会生活でそれがさらに強化された結果、コントロールが難しくなったんです。あなた自身に100% 責任はありませんよ」と医療的な免責を強調します。こうして回復を妨げる閉鎖的罪悪感を緩和したうえで「ありがとう」と「ごめんなさい」をいうための準備だけに専念してもらいます。

非自閉型の回復プロセス 内観療法について

もうひとつの内観療法とは、とてもシンプルです。次に掲げる「内観3項目」を幼少期から現在まで3歳刻みに自分のことを思い出していきます。

  1. してもらったこと
  2. 返したこと
  3. 迷惑をかけたこと

対象者は両親、配偶者、兄弟、子どもなどです。

この内観療法には「分散内観療法」と「集中内観療法」があります。分散内観療法は、期間をとくに定めることなく、毎日15~30分程度思い出し、治療者との面接時に定期的に報告してもらう方法です。

つい一方の集中内観療法は、1週間程度、病院や研修所などに泊まり込みます。衝立てでl m四方ほどの個室スペースをつくり、治療者以外との交流や音楽鑑賞などを禁止して、外部との交わりを遮断します。

面接は1回5分程度を2時間どとに1日計7回。治療者は患者が思い出したことをひたすら聞くだけで、コメントなどはしないようにします。

こうした内観療法では「3迷惑をかけたこと」を思い出すことで、罪悪感が強化されます。この場合の罪悪感は、はじめのうちは「どうせ自分が悪者なんだ」という被害者意識、もしくは自分を哀れむ「自己憐憫」が強い罪悪感(閉鎖的罪悪感) であるケースがほとんどです。

ところが「1してもらったこと」(被愛事実)を思い出していくと徐々に「すまなかった」という感謝をともなう開放的罪悪感に変化します。この俄悔心とも呼びたいような健康的な罪悪感を得ることで、安定した断ギャンブルへの移行が可能になるのです。