ギャンブル依存症とは

主婦にも多い現実逃避型

若者に多い「将来展望喪失型」を紹介しましたが、非正規雇用は全雇用者の38 % にも及び、男性の非正規雇用の平均年収は168万円、月収は14万円ほど です。

月収14万円のフリーターが稼いだお金を全部ギャンブルに使って達成欲と現実逃避欲が得られたとしても、その対価として月々10万円も差し出すくらいなら、もっと他に安価で合理的な現実逃避のための手段はあるでしょう。

例えば、好きなゲームや漫画本を大人買いして、その世界にどっぷり浸るという手もあります。ゲームや漫画本を大量に買って楽しみ、飽きたらインターネットのオークションサイトなどで売って、次の軍資金に充てるということを繰り返していくのも一手です。
ゲームや漫画本の大人買いにしても、月々10万円もいらないでしょう。月収14万円なら残り4万円は将来のために貯金をしたり、パラサイトしている親に食事代として渡してあげたりすることができるようになります。

そして、若年層以外にも、主婦が現実逃避欲でギャンブルに依存するケースも少なくありません。夫とのすれ違いや子育てのストレス、姑との軋轢などから一時でも逃れたいという一心で、ギャンブルに逃避するのです。
こういう主婦にも、ギャンブル以外で現実逃避できるものを考えなければいけません。カラオケや通信講座もいいですし、市民講座やカルチャーセンターに通ったり、余暇を活用してボランティア活動をしたりするのもよいでしょう。とにかく、他に夢中になれるものを探してみましょう。

勝った!オレって天才 にいくらお金をつぎこむのか

ワークシートでは「ギャンブルの目的=欲望」を重要な順番に並べてもらいます。

欲望が複数あり、たとえば、第1位が勝利欲、第2位が金銭欲、第3位が名誉欲だったとします。その場合はいちばん求めたい欲望、優先順位の高いものだけに狙いを絞ってギャンブルをしてもらいます。

勝利欲なら勝利欲、金銭欲なら金銭欲、名誉欲なら名誉欲をとことん追求してギャンブルをしてもらうのです。金銭欲に徹するとたいていプラスマイナスゼロくらいで収まるのですが、勝利欲や名誉欲を追求するためのギャンブルだと結果的にマイナスが多くなります。

あらゆるギャンブルは勝つ確率よりも負ける確率のはうが高いもの。そうでないと、ビジネスとして成り立ちません。仮にあるギャンブルに勝つ確率を10分の1 とすると、残りの10分の9 は負けてしまうわけですから、勝利欲を満たすためには結果的にマイナスが多くなるに決まっています。

つまり勝利にこだわるギャンブルでは、金銭的な損失が大きくなると覚悟するしかないのです。ただそれがいちばんの楽しみなら仕方ありません。週2回、1回1万円の軍資金でパチンコ店に通うとしたら、かかるコストは月8万円です。

そのうちの1回くらいは勝つ喜びを味わえるでしょう。それに感謝できるかどうかです。依存症の人は毎日ギャンブルをしようとしますが、勝つ喜びを得たいがためにギャンブルをするなら、それを月1 回ペースで味わえばいいと割り切るしかありません。

10回に1回しか勝てないのだとしたら、毎日通っていたら返済できない借金を背負い込むのが明らかだからです。求めたいのが勝利欲や名誉欲だとしたら、そのためにつぎ込める自分の小遣いを考えて通う回数をセーブすべき。結果的につぎ込んだお金は全部消えてしまって金銭欲は満たせませんが、その人にとっては金銭欲より勝利欲や名誉欲のほうが大事であり、レジャーであり道楽になっているのですから、なんの問題もないわけです。

酒好きでスナック通いが習慣になっている人も1回1万円前後はかかりますから、ギャンブルで1回1万円を失うのはさしたる問題とはいえません。ギャンブルで純粋忙勝つ喜びと名誉を味わいたいのだとしたらそれだけに徹するといいのですが、少し考えると勝利欲や名誉欲を味わうための必要資金としてはお金がかかりすぎていると気がつきます。

そこでこちら側から「もうちょっと安い資金で同じ感覚を味わえませんか」という疑問をぶつけます。「勝った! 」「やった! 」「オレはやっばりすごい! 」という勝利欲や名誉欲を味わうため、毎月8万円もかけているのは多すぎませんかという結論です。

カジノを設置するなら依存症対策をしっかりしなければいけない

横浜のカジノの誘致が本格化してきました。最初、反対していた知事が急に賛成派にまわってしまったのはどうしてでしょう?収益化できるものにもっと健全なものがあるはずです。世界からギャンブラーは集まるかもしれませんが、治安も悪くなりそうです。

日本にカジノができたら、それをきっかけとしてギャンブル依存症になる人は出てくるでしょう。パチンコのような非戦略的ギャンブリング、さらには競馬や競輪のよぅに初歩的な戦略的ギャンブリングにはまらなかったけれど、カジノのルーレットやバカラのようにいっそう高度な戦略的ゲームのやりとりに喜びを見出すタイプで、ある程度お金に余裕があるなら、そこにはまる人が出てきても不思議ではありません。

でも、そのような戦略的な指向性が強く、なおかつ依存症になるはどカジノに通い詰めるだけの資金力がある人は人口的には少ないですから、カジノが新たに設直されても日本におけるギャンブル依存症の大勢に大きな影響は与えないでしょう。

カジノはパチンコのようにメジャーにはなれないのです。しかし、カジノでギャンブル依存症になると大変目立ちます。せいぜい数万円単位の損をするのが関の山であるパチンコなどとは違い、カジノはその日のうちに数百万円、数千万円を失うこともあり得ますから、全財産をあっという間に失ってスッカラカンとなり、翌朝ホテルから飛び降り自殺するということも起こり得ます。

すると「カジノができたから、こんな犠牲者が出た。なぜこんなものを許したんだ」という声が反対派から一斉に上がるでしょうし、マスコミもそれを大々的に報道するでしょう。

国会を舞台にカジノ設置の善し悪しをめぐる議論が進むにつれて、ギャンブル依存症の問題がクローズアップされました。国策として新たにカジノをつくる以上は依存症対策をきちんとしてほしいですし、そのための予算も十分確保すべきだと思いますが、同時にカジノよりもっと身近な現行のギャンブルの依存症にどう対処するかを改めて真剣に考えてもらいたいと思います。

具体的には、全国の保健所でギャンブル依存症に対する相談体制を整えて、エイズ検査と同じように初回は無料にするべき。1回では依存症から完全に脱することはできませんが、大事なのは治る、治らないということより軌道修正。

ギャンブルをなんのためにしているのか、自分がなぜそんなに混乱しているのかを本人と家族が考えて、どの方向へ軌道修正すべきかを考えるきっかけになればよいのです。方向づけくらいならば1回の介入でも十分有意義だと思いますから、そのために必要な体制を整える資金は、カジノオペレーターの稼ぎから一定額を拠出してもらいましょう。

欲望充足法なら、他の合併症や重症化因子がなければ1回のアプローチでも有効です。