人は誰かに話すと悩みが軽減されたり解消する

妻がギャンブルにはまった夫に惚れているとしても、妻には夫に苦しめられ裏切られた憎悪や怒りが残っています。

それでも惚れている」ことを自覚したら、次はその憎悪や怒りをケアしないといけません。憎悪や怒りを本人に直接ぶつけてしまうと「愛されてない」「見捨てられた」と思い込み、ますます追い詰められてギャンブルをしたくなります。

かといって憎悪や怒りをため込んでおくのは精神衛生上よくありません。憎悪や怒りをぶつける対象を決めて、共感して聞いてくれる人に自分の心の内をはき出すべきでしょう。

憎悪や怒りは担当の医師に訴えてもいいですし、自助グループの家族の会に聞いてもらう手もあります。

ただし、家族の会は結果的に断ギャンブルや「コントロール・ギヤンブリング」への移行に成功した家族だけが集まっているケースが多く、「私は亭主をこうやってやめさせた」という自慢話を聞かされるハメになり、断ギャンブルにも「コントロール・ギヤンプリング」にもまだ成功していないと居心地が悪く、肩身の狭い思いをすることもあります。

家族の会が自分に合わなかったら、友達でも親戚でも誰でもOK。「これから10分間、亭主の悪口をいうから、黙って聞いて」と頼むのです。そうしたら1 週間後には、ギブ・アンド・テイクで聞いてくれた相手の愚痴も10 分間、黙って聞いてあげるといいでしょう。

誰かに話をするだけで憎悪や怒りがだいぶ晴れて、ずいぶんと気が楽になります。それは自分がいっていることを自分自身も聞いているから。すると不思議と冷静で客観的皇熟分になって「亭主の問題娃は亭主の問題。私がガチャガチャいうことではない」とバカバカしく思えてきます。『ギャンブルをやめてよ! 』『借金どうするの! 』なんて私はなぜいつもカッカカッカしていたんだろうと自分自身を客観視してアホらしくなってくるのです。

依存症から回復するポイントのひとつも、最終的に自分のやっていたことがバカバカしくなること。ギャンブルもアルコールも誰かから禁止されたり、我慢したり、頭で理解したりすることではなく、それ・目体がアホらしくなるのが回復の近道なのです。

アホらしくなるためには客観視しないといけませんし、客観硯するためには誰かに話をするのが有効なのです。その意味では患者さんが自助グループで自己開示することはとても有効な手段です。

それでも一緒にいるのは惚れている証拠

依存症になるとは借金を返すためにギャンブルをするとか、仕事で嫌なことがあつたからギャンブルをするとか、さまざまな理由をつけてギャンブルをしますが、繰り返し触れているように、じつは別の欲望を満たすための行為です。

でも、それは依存症者の妻も同じこと。「どうしようもない博打打ちの亭主と別れないのは、自身の隠された欲望のせいかもしれません。それは金銭欲ですか、世間体ですか、子どものためですか、それがなんなのかを考えてみませんか」というふうに聞きます。

1回で答えが出なければ、「しばらく考えてみてください。次の受診時に、この話の続きをしましょう」と約束してその場は帰ってもらいます。

すると自分自身に正直な妻なら「だって放っとけないもの」といい出します。そのセリフが聞けると、主治医はたいがい「いいですね」と手を打って喜びます。「別れるのはまるで見殺しにするようで、亭主が可哀想なのでしょう? 」と水を向けると、「そうなんです、あんな亭主でも… 」という答えが返ってくるケースが大半です。

兄弟姉妹や成人した子どもたちは「別れたほうがいいよ」「なぜ別れないの」と口々にいいますが、それでも妻は「放っとけない、可哀想だから」というのです。多くの医師は「可哀想ってこたあ、惚れたってことよ」といいます。「結婚して何年? 20 年、30 年たっても惚れているなんて素晴らしいじゃないですか」と言うでしょう。

そもそも惚れていないのなら、病院に連れてくる前にとっくに別れています。自分のことのように悩んでいること自体、惚れている証拠なのです。これを「夫婦の情」といってよいかもしれません。同様に親子のつながりも本質は血縁( DNA) ではなく「情」です。

たとえ、優秀な専門医でも、ギャンブル依存症の病理を完全に理解はできていません。だから妻が夫のギャンブル好きの心情を理解する必要はなく、夫を「惚れているかどうか」「放っとけないかどうか」「情があるかどうか」を基準として身の振り方を考えるべきだと思います。そこに「愛」あるかどうかで判断すればいいでしょう。

 

離婚せずにいる理由がわかっていない

依存症者を夫に持つ妻の多くは「別れない理由」を必死に探しています。別れない理由は、「子どもがまだ小さいから」「子どもが結婚前だから」「子どもが結婚したから」「孫ができたときにおじいちゃんが居たほうがいいから」「年寄りの面倒を見ないといけないから」「家が共有名義だから」などと次から次と出てきます。

これでは死ぬまで離婚できません。専業主婦で無職の場合、離婚してひとりでは生活できなくなるというのは深刻な問題ですが、そうなると生活保護を申請してもらうしかありません。安いアパートを借りてひとり暮らしで生活保護をもらい、足らない部分はパートをするという暮らし方は、現在の日本ではギリギリ可能だと思います。

夫のギャンブル依存をつねに気にして、借金に苦しみながらビクビクして生きる人生より、パート先で慣れない仕事に苦労してでも、自分の力で生きていくほうが精神的にずっと楽だと思います。

そう考えると別れない理由はないのです。そんな話をしていると「私はなぜこの人と一緒にいるんでしょうか? わからなくなってきました」と妻がいい出します。そんなときには、「そうでしょ、よくわからないでしょう」とかえしましょう。