2019年 12月 の投稿一覧

パチンコ、スロットなどの「非戦略的ギャンブリング」は自分の欲望に気づきにくい

ギャンブル依存症の疑いで専門病院を受診する人のほとんど、は、パチンコやスロットへの依存から抜け出せない人たち、残りが競輪、競馬、競艇などにはまっている人たちです。

専門的には、パチンコやスロットを「非戦略的ギャンブリング」と呼びます。そして競輪、競馬、競艇、そしてバカラなどのカジノを「戦略的ギヤンプリング」と区別しています。

パチンコやスロットは、多少のテクニックはあるものの、基本的にはギャンブルする側に戦略の立てようがありません。逆にいうとなにも考えなくできますから、自分の欲望にストレートに向き合う時間ときっかけを得にくくなります。

パチンコやスロットの店はわりと近所にあることが多いので気軽に入れますし、とりあえず台の前に座って機械を操作しているだけでそれなりに充実した時間を過ごせます。

一方の戟略的ギヤンプリングである競輪、競馬などには開催日がありますし、いずれも自分の頭をフル回転させて予想を立てないといけません。そのために過去のデータを参照したり、スポーツ新聞を熟読して戦略を立てたりしているときに「自分はなんのために、こんな面倒なことを毎週のようにしているのか」という疑問が否が応でも頭をもたげてきます。

競馬でその場を楽しんで現実逃避したいなら、オッズが2倍くらいの馬から流しておけば、大負けも大勝ちもしないでしょうが、全12レースを通して1日中楽しめます。金銭欲を追求したいなら、データを集めて、さらに馬主さんや厩務員さんからの秘密の情報を裏ルートで仕入れて、確実なデータが揃ったものだけに手持ちの資金をドンと賭けて大きなリターンを期待する手が使えます。

あるいは、損失リスクが最小限になるように大穴も含めて資金を分散して賭けてもよいでしょう。このように戦略的ギャンンプリングでは考えられる選択肢がいろいろとありますから、そのプロセスで自分の欲望に向き合わざるを得ないのです。

カジノのバカラなども、その都度脳細胞をフル回転させて賭けますから、欲望と向き合う機会は多いでしょう。それに対してパチンコやスロットはサンダル履きでコンビニ帰りにさっと寄って、なにも考えなくてもできます。非戦略的ギャンンブリングは自分の欲望を自覚しにくいため、自己矛盾を抱えていてもそうと気づかないうちにギャンブルにのめり込み、借金などの問題を抱えやすいという特徴があるのです。

もうひとりの自分がいる

ギャンブルをする理由を自問してある程度、自分の気持ちが分かってもそれだけであはすみません。なぜなら、ギャンブルはどうしても「儲けたい」という金銭欲がからんでくるからです。実はこれがとてもやっかいだったりします。

欲望はひとつならば健全なのですが、複数が重なり合うと、問題を引き起こすリスクが高まります。ひたすら大当たりを求め続けるとパチンコは損をするに決まっています。大当たりの頻度は300回転のうち1回などと定められています。

ただし90%以上の確率で確実に大当たりを得ようと思えば、計算上は700回転以上が必要です。ある専門家の試算によると、大当たりだけを求めると大体1ヶ月当たり5万円から10万円の赤字が出てしまいます。

大当たりを求めるパチンコに徹するのだとしたら金銭欲は捨てないといけません。勝ってお金を増やして儲けようとするのは諦めて「月に5万円から10万円かけてあの至福の時間を味わおう」と思うならノープロブレムなのです。

ところが「ギャンブルが好きだからギャンブルをする」という人に、改めてその魅力はどこにあるのかを聞いてみると

  • お金を増やしたい
  • 勝って見返したい
  • イヤなことを発散させたい

と答える人がかなりいます。単にギャンブルが好きだといいながら、一方では金銭欲、勝利欲、現実逃避欲の充足を求めているのです。
このように複数の欲望を同時に求めようとすると深刻な自己矛盾を生んでしまいます。こういう精神状態を専門的には「両価性」と呼びます。

両価性とは「うれしいけれど、悲しい」とか「愛しているけれど、憎たらしい」というふうに相反する感情が同時に存在している状況をいいます。両価性があると心にはつねに葛藤があり、ストレスが生じてメンタルヘルス(精神的な健康)が得られなくなり、「なんのためにギャンブルをするのか」という欲望充足の戦略を失って依存症のきっかけとなります。

借金問題がないとしたら、ギャンブル依存症では「自分の欲望がわからなくなっている」「自分のなかに相反する2人の自分がいる」という自己矛盾が、いちぼん先に解決すべき課題です。

ギャンブルをしている間は嫌なことが忘れられて楽しくストレスも発散できるけれど、そうしている自分が情けないし、つらくてみっともない。家族に嫌な思いをさせて申し訳ないという罪悪感と後悔を持ちながら、一方でのめり込んでいるのです。

このように自分のなかに相反する2人の自分がいることを確認するのが第一歩です。とくにギャンブルをしながら「本当はこんなことはしたくない、別のことをしたい」と後悔していたり、背負う借金が多額になったときに「一体こんなに借金をしてまで、なにをやっているんだろう」と自分自身が情けなくなったりする自己矛盾があった場合は、ギャンブル依存症として精神医学的な治療の対象となります。

ギャンブルをする理由

ギャンブルも依存も悪くない…むしろ打ち込むものを見つけられたことを評価すべきだ!ということを紹介しましたが、では、ギャンブル依存症のなにが問題なのでしょうか。

ギャンブル依存症とは、シンプルにいうと、「ギャンブルへののめり込みを自分でコントロールできない状態」。単なるギャンブルへの依存だったものが、ギャンブル依存症という病気として治療の対象となるかどうかを左右するのは、ギャンブルを減らす努力をして失敗した経験があるという「調節障害」の有無です。

また、依存から抜け出そうとしても抜け出せない病的な依存を、専門的には「嗜癖障害(しへきしょうがい)」とも呼ばれます。「嗜癖」とは辞書的にいうなら「ある特定の物質や行動、人間関係を特に好む性向」です。

調整障害、嗜癖障害となるポイントは、第一にのめり込みの強さにあります。

  • 借金をしてまでギャンブルを続ける
  • 家族に内緒で消費者金融でお金を借りる
  • 休みの日に朝~晩までパチンコ店で過ごす
  • どんなに損をしても海外のカジノにでかける
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こうした行動は、ギャンブルへの強いのめり込みを表しています。強いのめり込みが病的かどうかを判断する上で大事なポイントは、自分自身への問いかけです。

たとえば「私は毎日のようにパチンコをやっているけれども、一体なんのためにやっているのだろうか」と突き詰めて考えてみるのです。

この自問自答に「パチンコが好きだから」と答えるのは小学生レベルです。大人ですから、もう一歩深く踏み込んでギャンブルのどこが好きなのかを考えてみます。のめり込んでいる以上、ギャンブルになんらかの魅力を感じているはずなのです。
「大当たり(「フィーバー」など) の興奮が忘れられないから、それを求めてパチンコ店に朝から並ぶ」というだけなら、そこに自己矛盾はまったくありません。大当たりの興奮や快感を知ってこれを感じない人がいたとしたらその人は、何をしても楽しくない、つまらないといううつ病などの病気かもしれません。