2019年 12月 の投稿一覧

克服のための3ステップ

欲望充足では、ギャンブル依存は次にような仕組みで発生すると考えます。多ものギャンブル依存症の渇望感は金銭欲からはじまり、経過とともに名誉欲や硯蟄へ逃避欲が加わるパターンが、一般的です。

この変遷を自覚しないまま、「金銭欲だけのためにギャンブルをしている」と誤認し続けると真の欲望を見失ってしまいます。その結果、ギャンブルに対する中・長期的な展望と戦略が放棄されて、超短期的なその場限りの展望と戟略によって目先のギャンブルに走るようになります。

これは、欲望が複数化したことによる「ギャンブリング戦略」の喪失と捉えられます。2つ以上の目的を持つことをギャンブル依存症と定義したのは、欲望充足法によるものです。「ギャンブルに対するコントロール障害が起こったのは、ギャンブル能力そのものが低下したわけではない。現時点の欲望を叶えるのにギャンブルは最適な方法でなくなったにもかかわらず、ギャンブルを継続していることが問題なのだ」と理解すべきなのです。

欲望充足法による介入には、次の3つのステップがあります。

ステップ1「金銭欲が真の欲望ではないことの確認」
もし金銭欲だけがギャンブルをする理由ならば、勝負勘と確率理論を駆使しながら「コントロール・ギャンブリング」を維持できたはずです。金銭欲を第1に生きている人は金を失うことに対して強い恐怖と嫌悪感を抱いています。
したがって冷静に損得勘定を追求しますから、損失したお金をただちにとり戻そうとして損出がかさむ「深追い」などしないはずです。
勝負の流れに関係なく、借金を重ねてまでお金をつぎ込むこともないでしょう。それができないのは、純粋な金銭欲だけでギャンブルをしていない証拠。一貫した戦略のないギヤンプリングに変質しているのです。
このように「お金を増やすためにギャンブルをしている」という理屈に揺さぶりをかけ、抑圧されて表面に出てこない欲望を自覚することを促します。
ステップ2「真の欲望を見つける」
金銭欲が主たる欲望でないと確認したら、次の段階では隠れた真の欲望を見つけ出します。ギャンブル依存症では多くの場合、「勝ったときの喜びを再度味わいたい」という名誉欲、あるいは「ギャンブルにひたすら没頭してなにも考えない思考停止状態になりたい」という現実逃避欲が潜んでいます。
名誉欲には、達成感や他者からの賞賛、または予想が的中した、未来を支配したという「誇大感をともなう支配欲」も含まれています。
現実逃避欲には、非現実的な世界への没頭、あるいは自分と他者の間の境界が不明瞭になる「自我の希薄化」があります。自我の希薄化は、一定期間の記憶を再生できない「健忘」、自分が自分でないように感じてしまう「離人症状」などを引き起こすこともあります。
これは広い意味での「睡眠欲」です。この2つの欲望が大きくなりすぎて、睡眠欲以外の生理的欲求である食欲や性欲などが抑えられているケースも多く見受けられます。
ステップ3「真の欲望を満たす適切な方法を探す」
ステップ2で見つけ出した真の欲望に対して、ギャンブル以外の方法で満たす適切な方法を探しています。たとえば、名誉欲に対しては趣味・娯楽などで自己表現の方法を探します。どんなニッチな分野でも、他人の賞賛が得られるものを見つけるのがポイントです。
現実逃避欲に対しては、入浴剤やアロマテラピーなどを活用した快眠、瞑想、ヨガなどがあります。
歌うのが好きなら、ひとりカラオケで陶酔するのも悪くないでしょう。その際はまわりの期待や世間体などに惑わされることなく、自分に合った方法を探して充足させることに主眼を置きます。
もちろんゲームを利用することも可能です。しかし、ゲームソフトの単独利用に比べてネットゲームや課金加算型ゲームは他者のペースに巻き込まれるため、現実逃避欲の充足が不十分になりやすいので注意が必要です。
それと同時に抑えられている食欲や性欲などの生理的欲求を適度に活性化して満たすことも重要です。食欲については、ラーメンやカレーといった好きな食べ物にテーマを絞って食べ歩いたり、レシピを工夫しながら自炊したりする方法があります。性欲についてはパートナーとの充実した交流で満たすのが基本です。

欲望を満たす際にギャンブルを選ばない

必ずしも脱ギャンブルにつながらないうえに、自己矛盾を抱えた疾患モデルに変わる依存症完治のモデルを考えるときにヒントになったことがあります。
それは依存症患者を長期的に観察すると3分の1以上に自然回復が見受けられるうえに、小遣いの範囲でギャンブルをする「コントロール・ギャンプリング」に回復するタイプも少なくないというものです。

こうしたギャンブル依存症が回復する方法には、通常4つの区分があります。

  1. 借金を重ねたことによる破産など絶望的状況に圧倒される
  2. 金銭欲が正しく活性化されて否応なく損得勘定をするようになる
  3. 絶望的な状況に陥るという恐怖心からギャンブルの刺激を避ける
  4. ギャンブルに替わる新たな活動をはじめる

4つのうちこの2と3を計画的かつ体系的に行うのが認知行動療法的ですが、最終的な回復の成否は4が成功するかどうかにかかっています。

ギャンブルが満たしてくれていた欲望を代わりに満たしてくれるものを見つけない限り、どれほどギャンブルの損得を理屈で理解しようとしても欲求不満が高まるばかりでいずれ、ギャンブル依存へと逆戻りしてしまいます。

ギャンブルをしたいという渇望感は、金銭欲や名誉欲などによって形成された「欲動」の複合体です。欲望とは専門的には人を何かの行動に向かわせる無意識レベルの衝動のことです。

「ギャンブル渇望を制御するためには、金銭欲や名誉欲といった欲動をギャンブル以外の方法で直接満たすことがもっとも自然」です。こうして導きだれたものが「欲望充足法」です。

「当選確率」と「運」の過大視 ボールペンで財産線を手のひらに描く人も

疾患モデルに従うと、ギャンブル依存症の治療では、渇望感の元凶となるギャンブルを徹底的に断つしかなくなります。断ギャンブルには、

  1. 心理的
  2. 生物学的
  3. 実存的

と3 つのアプローチが有効だといわれています。

順番に説明すると、心理的アプローチでは、「認知行動療法プログラム」がもっとも効果的とされています。認知とは「物事の捉え方」で、その偏りや歪みを修整するプログラムです。

ギャンブル依存症における特徴的な物事の捉え方の歪みには、「当選確率」と「運」の過大視という2つの側面があります。

ルーレットで黒が3 、4 回続くと「次は赤だろう」と思いがちですが、黒か赤の2つしか選択肢がないなら、黒が出る確率も赤が出る確率もつねに2分の1。

それなのに「黒が続くと赤が出る確率が高くなるから、そこに賭ければひと儲けできる」と思い込むのが、 当選確率の過大視です。そんな風に思ってしまう心当たりがある人も多いはずです。

さらに、手相を見ていわゆるギャンブル線や財産線を見つけたりすると「他の人より自分は運がよいはずだから、いつか絶対に大儲けできるはずだ」と思い込んでギャンブルにのめり込むのが、運の過大視です。

なかには、ボールペンで財産線を手のひらに描いた日にたまたま大当たりをしたことから「やはり財産線のど利益は本物だった!」と思い込み、財産線を描き続けて負け続ける人もいます。

アメリカ精神医学会の診断基準にあるように「賭博の損失を賭博でとり戻そうとする」のも物事の捉え方の歪みの表れといえます。短期的には勝てる可能性もありますが、プロのギャンブラー以外は、長い目で見ると賭け事で収支がプラスに傾くことはあり得ません。

そうでなければ、ギャンブルというビジネスモデルは成り立たないでしょう。こうした認知の歪みは修正しないよりは修正したはうがよいでしょうが、修正してもしなくても回復率は変わらないという報告もあります。

次の生物学的アプアプローチの中心になるのは薬物療法。ギャンブル脳の興奮を抑えようというものです。薬物療法には抗うつ剤としても用いられる「SSI」(選択的セロトニン再とり込み阻害剤)、気分安定剤の「リチウム」、抗てんかん薬の「トピラマート」などが、適応外使用ですが用いられることがあります。
抗うつ薬・精神薬はこちら。

しかし現時点では、断ギャンブルを維持できた人の割合が偽薬を用いるプラゼボ群と比較して有意に高い薬物は存在しません。つまりギャンブル依存症の特効薬はないということです。最後の実存的アプローチとは、ギャンブルを必要としない生き方への転換を促すものです。

これは倫理的・道徳的な圧力をギャンブル依存症者に課すことになり、根本的な価値観の転換が求められるため、強い心の痛みをともないます。医療で最優先すべきなのは本人の苦痛の除去ですから、実存的アプローチはその戦略に反する部分があるといわざるを得ないでしょう。

ざっと見るだけでも、疾患モデルを根拠とした断ギャンブルに向けた介入は必ずしも成功していないことがわかります。そもそも疾患モデルでは依存症患者は脳がギャンブル脳に変化してしまい、ギャンブルをしたいという欲求が抑えらないと定義しているのですから、脳に効く特効薬がない現状ではその人に断ギャンブルを強いるのは矛盾しているわけです。