2019年 12月 の投稿一覧

今、主流の疾患モデル

脱ギャンブルや小遣いの範囲内でギャンブルをする「コントロール・ギヤンブリング」に移行するなど、8割に効果を上げている「欲望充足モデル」についての前に、現在主流である「疾患(病気)モデル」についてです。

こちらのスクリーニングテストもアメリカ精神医学会のギャンブル依存症の診断基準もこのモデルをベースにしています。

このモデルによるとギャンブル依存症とは、「自分もしくはまわりの人に悪い結果をもたらすことを知りながら、ギャンブルがしたいという内的衝動をコントロールできないために生じる」と定義されています。

病態の中核となっているのは、ギャンブルがしたいという渇望を自ら抑える制御力の弱体化です。ギャンブルの習慣があっても、そこで得られる報酬に満足しており、ギャンブルに対する渇望がコントロールできている人は問題なくギャンブルを楽しんでいます。これを「社交的あるいはレジャーとしての)ギャンブリング」と呼びます。

ギャンブルをする人の大半はこの社交的ギャンブリングですが、ギャンブルに対する親和性が強く、自分を抑える制御力を超える渇望が生まれると「調節障害」を生じます。これがギャンブル依存症です。

疾患モデルの背景にあるのは、通常の脳がギャンブルをしたがる脳、つまり「ギャンブル脳」に変化するという仮説です。この仮説に従うと、脳内では次のような変化が起こっていると推察されます。

パチンコで大当たりが出る、競馬で大穴を当てる、カジノのルーレットで大金を手にるといったギャンブルにともなう強い刺激を受けると、中脳の「腹側被蓋野」というところにある神経細胞が興奮して、その末端から神経刺激物質である「ドーパミンン」が分泌されます。

腹側被蓋野は中央のオレンジ色の部分である。 腹側被蓋野(ふくそくひがいや、ventral tegmental area, ventral tegmentum、VTA)は哺乳類の脳における中脳の一領域であり、被蓋腹側に位置します。

ドーパミンは脳内で快感や報酬にかかわる「側坐核」、条件づけにかかわる「扁桃体」といった部分を刺激します。ギャンブル刺激が続くとこのルートが強化されるよぅになり、「またあの刺激が欲しい!」というギャンブル脳に変化して、のめり込みが制御不能に陥るというのです。

側坐核は、報酬、快感、嗜癖、恐怖などに重要な役割を果たすと考えられ、またこの部位の働きが強い者ほど嘘をつきやすいことが京都大学の研究グループによって突き止められています。側坐核は両側の大脳半球に一つずつ存在し。 尾状核頭と被殻前部が、透明中隔の外側で接する場所に位置します。

カジノを設置するなら依存症対策をしっかりしなければいけない

横浜のカジノの誘致が本格化してきました。最初、反対していた知事が急に賛成派にまわってしまったのはどうしてでしょう?収益化できるものにもっと健全なものがあるはずです。世界からギャンブラーは集まるかもしれませんが、治安も悪くなりそうです。

日本にカジノができたら、それをきっかけとしてギャンブル依存症になる人は出てくるでしょう。パチンコのような非戦略的ギャンブリング、さらには競馬や競輪のよぅに初歩的な戦略的ギャンブリングにはまらなかったけれど、カジノのルーレットやバカラのようにいっそう高度な戦略的ゲームのやりとりに喜びを見出すタイプで、ある程度お金に余裕があるなら、そこにはまる人が出てきても不思議ではありません。

でも、そのような戦略的な指向性が強く、なおかつ依存症になるはどカジノに通い詰めるだけの資金力がある人は人口的には少ないですから、カジノが新たに設直されても日本におけるギャンブル依存症の大勢に大きな影響は与えないでしょう。

カジノはパチンコのようにメジャーにはなれないのです。しかし、カジノでギャンブル依存症になると大変目立ちます。せいぜい数万円単位の損をするのが関の山であるパチンコなどとは違い、カジノはその日のうちに数百万円、数千万円を失うこともあり得ますから、全財産をあっという間に失ってスッカラカンとなり、翌朝ホテルから飛び降り自殺するということも起こり得ます。

すると「カジノができたから、こんな犠牲者が出た。なぜこんなものを許したんだ」という声が反対派から一斉に上がるでしょうし、マスコミもそれを大々的に報道するでしょう。

国会を舞台にカジノ設置の善し悪しをめぐる議論が進むにつれて、ギャンブル依存症の問題がクローズアップされました。国策として新たにカジノをつくる以上は依存症対策をきちんとしてほしいですし、そのための予算も十分確保すべきだと思いますが、同時にカジノよりもっと身近な現行のギャンブルの依存症にどう対処するかを改めて真剣に考えてもらいたいと思います。

具体的には、全国の保健所でギャンブル依存症に対する相談体制を整えて、エイズ検査と同じように初回は無料にするべき。1回では依存症から完全に脱することはできませんが、大事なのは治る、治らないということより軌道修正。

ギャンブルをなんのためにしているのか、自分がなぜそんなに混乱しているのかを本人と家族が考えて、どの方向へ軌道修正すべきかを考えるきっかけになればよいのです。方向づけくらいならば1回の介入でも十分有意義だと思いますから、そのために必要な体制を整える資金は、カジノオペレーターの稼ぎから一定額を拠出してもらいましょう。

欲望充足法なら、他の合併症や重症化因子がなければ1回のアプローチでも有効です。

褒められたい心理がギャンブルを強く求める

いずれの嗜癖行動にも、「褒める自分」と「褒められる自分」という1人2役の状態をより意図的につくってくれるという効果があり、それがひとつの魅力になっています。

ギャンブルでいうなら、「仕事ではあまりうだつが上がらないけれど、ギャンブルではこんなカを持っているのだから、オレはスゴイ!」と酔わせてくれるのです。ギャンブル限らずなにかはまる依存症タイプは、基本的に周囲の人に評価してほしいという気持ちを強く持っています。甘ったれているといえば、甘ったれているかもしれません。

「頑張っているのはあなただけじゃない。みんな褒めてほしいんだ」という非難はもっともですが、それでも褒めてもらいたいのです。

日常でも自分で自分を励ます場面はよくありますが、励まし方がさほど強くはありしらふません。素面だと褒めている自分と褒められている自分という一人二役をこなすのが気恥ずかしくて、強く褒められないのです。

ところが、ギャンブルでもアルコールでも薬物でも、のめり込む嗜癖はみな気恥ずかしくなく胸を張って自分を褒めるチャンスをつくってくれます。

ギャンブルで勝利に酔っている瞬間、アルコールや薬物に溺れているときは、素面のときの自分とは確実に離れていますから、感覚が麻痔して1人2役が自然にこなせて自分で自分を素直に褒め倒せるのです。この「褒められたい」という欲求を満たしたいという思いが、依存症に走らせるひとつの要因になっています。