ギャンブル依存症とは

スクリーニングテスト

ギャンブル依存症かどうかの診断基準には、アメリカでつくられた2つの手法が日本でも用いられています。ひとつは、アメリカ精神医学会によって出版されている「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM) 」で、その最新版の概略は次の通りです。

ギャンブル依存症の診断基準

  • 賭博のことを考えることが多い(強いギャンブル欲求)
  • 興奮を得るため賭け金の額を増やす(耐性)
  • 賭博を減らす努力をして失敗したことがある(調節障害)
  • 賭博を減らすと不安、落ち着かない(離脱症状)
  • 不安な気分の解消手段としての賭博(逃避)
  • 賭博の損失を賭博でとり戻そうとする(深追い)
  • 賭博へののめり込みを隠すために嘘をつく(罪悪感)
  • 賭博のために大切な人間関係、仕事などが危うくなる(人間関係のヒビ)
  • 絶望的経済状況を救うために他人に借金を頼む(経済的問題)

重症度

4~5個
軽症
6~7
中等症
8~9
重症

もうひとつは、ニューヨークのサウス・オークス財団が1980年代にギャンブル依存症の診断のために開発したテストです。

サウス・オークス・ギャンブリング・スクリーン

1.ギャンブルで負けたとき、負けをとり戻そうと別の日にギャンブルをしますか?
  1. しない
  2. 2回に1回する
  3. たいていする
  4. いつもする
2.ギャンブルで負けたときでも、勝っていると嘘をついたことがありますか?
  1. ない
  2. 半分はそうする
  3. たいていはする
3.ギャンブルのために、なにか問題が生じたことがありますか?
  1. ない
  2. 以前はあったが今はない
  3. ある
4.自分がしようと思った以上に、ギャンブルにはまったことがありますか?
  1. ある
  2. ない
5.ギャンブルのために人から非難を受けたことがありますか?
  1. ある
  2. ない
6.自分のギャンブル癖やその結果生じた事柄に対して悪いなと感じたことがありますか?
  1. ある
  2. ない
7.ギャンブルをやめようと思っても、不可能だと感じたことがありますか?
  1. ある
  2. ない
8.ギャンブルの証拠になるような券などを家族の目に触れぬように隠したことがありますか?
  1. ある
  2. ない
9.ギャンブルに使うお金に関して、家族と口論になったことがありますか?
  1. ある
  2. ない
10.借りたお金をギャンブルに使ってしまい、返せなくなったことがありますか?
  1. ある
  2. ない
11.ギャンブルのために仕事をさばったことがありますか?
  1. ある
  2. ない
12.ギャンブルに使うお金をどのようにして作りますか? またどのようにして借金しますか? 当てはまるもの全部に○ をつけてください。
  1. 生活費を削って
  2. 配偶者や両親のお金から
  3. 親戚・知人からる
  4. 銀行から
  5. 消費者金融から
  6. 定期預金の解約
  • 質問1(3、4)
  • 質問2~3(2、3)
  • 質問4~11(1が1点)
  • 質問12(1~6までで当てはまった数の合計)
3~4点
問題あるギャンブル
5点以上
ギャンブル依存症

パチンコ、スロットなどの「非戦略的ギャンブリング」は自分の欲望に気づきにくい

ギャンブル依存症の疑いで専門病院を受診する人のほとんど、は、パチンコやスロットへの依存から抜け出せない人たち、残りが競輪、競馬、競艇などにはまっている人たちです。

専門的には、パチンコやスロットを「非戦略的ギャンブリング」と呼びます。そして競輪、競馬、競艇、そしてバカラなどのカジノを「戦略的ギヤンプリング」と区別しています。

パチンコやスロットは、多少のテクニックはあるものの、基本的にはギャンブルする側に戦略の立てようがありません。逆にいうとなにも考えなくできますから、自分の欲望にストレートに向き合う時間ときっかけを得にくくなります。

パチンコやスロットの店はわりと近所にあることが多いので気軽に入れますし、とりあえず台の前に座って機械を操作しているだけでそれなりに充実した時間を過ごせます。

一方の戟略的ギヤンプリングである競輪、競馬などには開催日がありますし、いずれも自分の頭をフル回転させて予想を立てないといけません。そのために過去のデータを参照したり、スポーツ新聞を熟読して戦略を立てたりしているときに「自分はなんのために、こんな面倒なことを毎週のようにしているのか」という疑問が否が応でも頭をもたげてきます。

競馬でその場を楽しんで現実逃避したいなら、オッズが2倍くらいの馬から流しておけば、大負けも大勝ちもしないでしょうが、全12レースを通して1日中楽しめます。金銭欲を追求したいなら、データを集めて、さらに馬主さんや厩務員さんからの秘密の情報を裏ルートで仕入れて、確実なデータが揃ったものだけに手持ちの資金をドンと賭けて大きなリターンを期待する手が使えます。

あるいは、損失リスクが最小限になるように大穴も含めて資金を分散して賭けてもよいでしょう。このように戦略的ギャンンプリングでは考えられる選択肢がいろいろとありますから、そのプロセスで自分の欲望に向き合わざるを得ないのです。

カジノのバカラなども、その都度脳細胞をフル回転させて賭けますから、欲望と向き合う機会は多いでしょう。それに対してパチンコやスロットはサンダル履きでコンビニ帰りにさっと寄って、なにも考えなくてもできます。非戦略的ギャンンブリングは自分の欲望を自覚しにくいため、自己矛盾を抱えていてもそうと気づかないうちにギャンブルにのめり込み、借金などの問題を抱えやすいという特徴があるのです。

もうひとりの自分がいる

ギャンブルをする理由を自問してある程度、自分の気持ちが分かってもそれだけであはすみません。なぜなら、ギャンブルはどうしても「儲けたい」という金銭欲がからんでくるからです。実はこれがとてもやっかいだったりします。

欲望はひとつならば健全なのですが、複数が重なり合うと、問題を引き起こすリスクが高まります。ひたすら大当たりを求め続けるとパチンコは損をするに決まっています。大当たりの頻度は300回転のうち1回などと定められています。

ただし90%以上の確率で確実に大当たりを得ようと思えば、計算上は700回転以上が必要です。ある専門家の試算によると、大当たりだけを求めると大体1ヶ月当たり5万円から10万円の赤字が出てしまいます。

大当たりを求めるパチンコに徹するのだとしたら金銭欲は捨てないといけません。勝ってお金を増やして儲けようとするのは諦めて「月に5万円から10万円かけてあの至福の時間を味わおう」と思うならノープロブレムなのです。

ところが「ギャンブルが好きだからギャンブルをする」という人に、改めてその魅力はどこにあるのかを聞いてみると

  • お金を増やしたい
  • 勝って見返したい
  • イヤなことを発散させたい

と答える人がかなりいます。単にギャンブルが好きだといいながら、一方では金銭欲、勝利欲、現実逃避欲の充足を求めているのです。
このように複数の欲望を同時に求めようとすると深刻な自己矛盾を生んでしまいます。こういう精神状態を専門的には「両価性」と呼びます。

両価性とは「うれしいけれど、悲しい」とか「愛しているけれど、憎たらしい」というふうに相反する感情が同時に存在している状況をいいます。両価性があると心にはつねに葛藤があり、ストレスが生じてメンタルヘルス(精神的な健康)が得られなくなり、「なんのためにギャンブルをするのか」という欲望充足の戦略を失って依存症のきっかけとなります。

借金問題がないとしたら、ギャンブル依存症では「自分の欲望がわからなくなっている」「自分のなかに相反する2人の自分がいる」という自己矛盾が、いちぼん先に解決すべき課題です。

ギャンブルをしている間は嫌なことが忘れられて楽しくストレスも発散できるけれど、そうしている自分が情けないし、つらくてみっともない。家族に嫌な思いをさせて申し訳ないという罪悪感と後悔を持ちながら、一方でのめり込んでいるのです。

このように自分のなかに相反する2人の自分がいることを確認するのが第一歩です。とくにギャンブルをしながら「本当はこんなことはしたくない、別のことをしたい」と後悔していたり、背負う借金が多額になったときに「一体こんなに借金をしてまで、なにをやっているんだろう」と自分自身が情けなくなったりする自己矛盾があった場合は、ギャンブル依存症として精神医学的な治療の対象となります。