新しい治療

ギャンブル以外で欲望を満たす

基本となる3つのステップを踏まえたところで、のようにギャンブル依存症の治療が行われているかです。まずご本人さんに次のようなワークシートを渡して、医師と一緒になって自らの小異の欲望を探し、ギャンブルに代わる欲望の満たし方を見つけていきます。

欲望探索および代替行動発見のためのワークシート

ギャンブルをはじめた目的
  • 暇つぶし
  • 気分転換
  • イヤなことやツライことを忘れるため
  • 勝利の結果得られる優越感や達成感を得るため
  • 結果までのわくわく感、期待感、スリルを味わうため
  • ギャンブル対象そのもの(テーマ、キャラクター、選手、馬などが)好き
  • 小遣い(遊興費)を稼ぐ
  • 生活費のため
  • 借金返済のため
  • その他( )
現在のギャンブルの目的
  • 暇つぶし
  • 気分転換
  • イヤなことやツライことを忘れるため
  • 勝利の結果得られる優越感や達成感を得るため
  • 結果までのわくわく感、期待感、スリルを味わうため
  • ギャンブル対象そのもの(テーマ、キャラクター、選手、馬などが)好き
  • 小遣い(遊興費)を稼ぐ
  • 生活費のため
  • 借金返済のため
  • その他( )
もっとも重要な目的から順番に並べてください。
  1. ( )
  2. ( )
  3. ( )
それぞれの目的を果たすためにどのようなエ夫や努力をしてきましたか?
( )
目的は果たされたか
( )
果たされている→よかったですね。これからも工夫して果たせるように努力してください。

さまざまな工夫を試みたにもかかわらず、目的が果たせなかった理由
  • ギャンブルそのものが目的を達成する手段としては不適切なものになってしまった
  • 複数の目的を求めたために結果としてそれぞれの達成度が中途半端なものになった
  • という2 つのの場合が考えられます。どちらがより当てはまりますか?

再度自分がギャンブルに感じるもっとも強い魅力を挙げてください
( )
過去に同じような魅力をギャンブル以外で感じたことはありますか?
( )
今後ギャンブルに関連した魅力や欲望充足感をギャンブル以外で獲得するためにはどのような方法がありますか? 思いつくままに挙げてみてください(ただし法的許容範曲内で)自分ができそうな行為について
( )

ギャンブルをするかしないかは個人の意思を超えた多様な要因によって決まります。したがってギャンブルそのものの頻度や金額にはこだわらず、ギャンブルの代わりになるものを見つけることに専念してください。ギャンブルをやめているときは、たまたま運よく衝動が止まっているにすぎません。自力でやめているなどと勘違いせず、その状況に感謝しましょう。そして、その状況の維持に努めましょう。

克服のための3ステップ

欲望充足では、ギャンブル依存は次にような仕組みで発生すると考えます。多ものギャンブル依存症の渇望感は金銭欲からはじまり、経過とともに名誉欲や硯蟄へ逃避欲が加わるパターンが、一般的です。

この変遷を自覚しないまま、「金銭欲だけのためにギャンブルをしている」と誤認し続けると真の欲望を見失ってしまいます。その結果、ギャンブルに対する中・長期的な展望と戦略が放棄されて、超短期的なその場限りの展望と戟略によって目先のギャンブルに走るようになります。

これは、欲望が複数化したことによる「ギャンブリング戦略」の喪失と捉えられます。2つ以上の目的を持つことをギャンブル依存症と定義したのは、欲望充足法によるものです。「ギャンブルに対するコントロール障害が起こったのは、ギャンブル能力そのものが低下したわけではない。現時点の欲望を叶えるのにギャンブルは最適な方法でなくなったにもかかわらず、ギャンブルを継続していることが問題なのだ」と理解すべきなのです。

欲望充足法による介入には、次の3つのステップがあります。

ステップ1「金銭欲が真の欲望ではないことの確認」
もし金銭欲だけがギャンブルをする理由ならば、勝負勘と確率理論を駆使しながら「コントロール・ギャンブリング」を維持できたはずです。金銭欲を第1に生きている人は金を失うことに対して強い恐怖と嫌悪感を抱いています。
したがって冷静に損得勘定を追求しますから、損失したお金をただちにとり戻そうとして損出がかさむ「深追い」などしないはずです。
勝負の流れに関係なく、借金を重ねてまでお金をつぎ込むこともないでしょう。それができないのは、純粋な金銭欲だけでギャンブルをしていない証拠。一貫した戦略のないギヤンプリングに変質しているのです。
このように「お金を増やすためにギャンブルをしている」という理屈に揺さぶりをかけ、抑圧されて表面に出てこない欲望を自覚することを促します。
ステップ2「真の欲望を見つける」
金銭欲が主たる欲望でないと確認したら、次の段階では隠れた真の欲望を見つけ出します。ギャンブル依存症では多くの場合、「勝ったときの喜びを再度味わいたい」という名誉欲、あるいは「ギャンブルにひたすら没頭してなにも考えない思考停止状態になりたい」という現実逃避欲が潜んでいます。
名誉欲には、達成感や他者からの賞賛、または予想が的中した、未来を支配したという「誇大感をともなう支配欲」も含まれています。
現実逃避欲には、非現実的な世界への没頭、あるいは自分と他者の間の境界が不明瞭になる「自我の希薄化」があります。自我の希薄化は、一定期間の記憶を再生できない「健忘」、自分が自分でないように感じてしまう「離人症状」などを引き起こすこともあります。
これは広い意味での「睡眠欲」です。この2つの欲望が大きくなりすぎて、睡眠欲以外の生理的欲求である食欲や性欲などが抑えられているケースも多く見受けられます。
ステップ3「真の欲望を満たす適切な方法を探す」
ステップ2で見つけ出した真の欲望に対して、ギャンブル以外の方法で満たす適切な方法を探しています。たとえば、名誉欲に対しては趣味・娯楽などで自己表現の方法を探します。どんなニッチな分野でも、他人の賞賛が得られるものを見つけるのがポイントです。
現実逃避欲に対しては、入浴剤やアロマテラピーなどを活用した快眠、瞑想、ヨガなどがあります。
歌うのが好きなら、ひとりカラオケで陶酔するのも悪くないでしょう。その際はまわりの期待や世間体などに惑わされることなく、自分に合った方法を探して充足させることに主眼を置きます。
もちろんゲームを利用することも可能です。しかし、ゲームソフトの単独利用に比べてネットゲームや課金加算型ゲームは他者のペースに巻き込まれるため、現実逃避欲の充足が不十分になりやすいので注意が必要です。
それと同時に抑えられている食欲や性欲などの生理的欲求を適度に活性化して満たすことも重要です。食欲については、ラーメンやカレーといった好きな食べ物にテーマを絞って食べ歩いたり、レシピを工夫しながら自炊したりする方法があります。性欲についてはパートナーとの充実した交流で満たすのが基本です。

欲望を満たす際にギャンブルを選ばない

必ずしも脱ギャンブルにつながらないうえに、自己矛盾を抱えた疾患モデルに変わる依存症完治のモデルを考えるときにヒントになったことがあります。
それは依存症患者を長期的に観察すると3分の1以上に自然回復が見受けられるうえに、小遣いの範囲でギャンブルをする「コントロール・ギャンプリング」に回復するタイプも少なくないというものです。

こうしたギャンブル依存症が回復する方法には、通常4つの区分があります。

  1. 借金を重ねたことによる破産など絶望的状況に圧倒される
  2. 金銭欲が正しく活性化されて否応なく損得勘定をするようになる
  3. 絶望的な状況に陥るという恐怖心からギャンブルの刺激を避ける
  4. ギャンブルに替わる新たな活動をはじめる

4つのうちこの2と3を計画的かつ体系的に行うのが認知行動療法的ですが、最終的な回復の成否は4が成功するかどうかにかかっています。

ギャンブルが満たしてくれていた欲望を代わりに満たしてくれるものを見つけない限り、どれほどギャンブルの損得を理屈で理解しようとしても欲求不満が高まるばかりでいずれ、ギャンブル依存へと逆戻りしてしまいます。

ギャンブルをしたいという渇望感は、金銭欲や名誉欲などによって形成された「欲動」の複合体です。欲望とは専門的には人を何かの行動に向かわせる無意識レベルの衝動のことです。

「ギャンブル渇望を制御するためには、金銭欲や名誉欲といった欲動をギャンブル以外の方法で直接満たすことがもっとも自然」です。こうして導きだれたものが「欲望充足法」です。