入院治療か通院治療かの判断

外来だけで治療を行うには条件がある

外来治療を希望すればできるというものではありません

入院をしないで外来通院だけで治療

入院治療と外来治療については、ジアゼパムなど禁断症状を抑える特効薬があらわれたので、禁断症状をおこす可能性があっても、薬を服用しながら家庭で治療をつづけることも可能になりました。

ただし、これは、専門医の指導があって、十分に目がとどくという条件つきであり、さらに本人の断酒の決意が固く、かつ体力もあり、四六時中看護する家族がいて、いざというときには近くの開業医の協力もえられるという条件も満たされなくてはなりません。

体力が弱っていたり、内臓の病気があったり、また誘惑にまけて飲む可能性のある人は、専門病院に入院して酒を断ったほうが無難です。

どのような方であれば通院治療が可能であるかです。通院による治療を可能にするにはまず、本人が不承不承ながらも、アルコール外来に診療のために訪れて、自分がアルコール依存症ないしアルコール依存症にかかっていることを認めて、断酒を決意して通院をつづける覚悟が必要です。

いやがる本人をなんとか説得して、外来受診にまでもっていくのはたいへんな作業です。連続飲酒発作の最中や、まだ酔いが残っている場合には、この作業を行うのは逆効果です。

しかし、こうしたときでも本人は「このままではたいへんなことになる」という自覚はもっているものです。だから二日酔いの朝には、その反省によってうつ状態になるのではないでしようか。

妻の心得のようにこうした反省がすこしでもきざしたタイミングをとらえて、本人からアルコール外来の約束をとりつけてください。
または、その前段階として保健所への相談や、断酒会、A・Aに出席する約束だけでもとりつけてください。それでも、本人がどうしても保健所へでかけたり自助グループに参加しない場合は、たとえ家族だけでもさきに保健所や自所グループに酒害相談に行くべきです。
保健所のワーカーや自助グループのメンバーが自宅を訪問して、本人を説得してくれる地域もあるのです。

自助グループの緊急援助

A・Aや断酒会による緊急援助

どのように実施されるか

国内のA・Aや断酒会など、自助グループの活動のスタートは、本場アメリカにくらべて、30年以上おくれました。したがって、緊急援助は個人の熱意によるケース・バイ・ケースのもので、システムとしてはまだととのっていない段階にあります。

これは、その地域ごとに自助団体の組織状況や活動ぶりが、まだまちまちだからといえるでしょう。そこで、地域にどんな自助団体があり、またどんなアルコール専専門の病院や外来があるのか、さらにどんなサービスを受けられるかについては、いちがいにこうとは言えません。自分の居住地に関するこうした情報は、管轄の保健所や精神保健センターがもっています。
まず家族が保健所精神保健センターの酒害相談を利用することをおすすめします。
緊急援助活動もふくめて、必要な情報を教えてくれるはずです。

最初の受診でのやりとり

実際のやりとり

本人が医師の前にあらわれたら、まずどういうやりとりをするのか

なんとかして、アルコール外来に本人があらわれたら、それからは精神科医の腕のみせどころとなります。この、最初の受診での医師の作業は、いかにして本人に自分が病気であるとの自覚をもたせるか、そして断酒への決意をかためさせるか、つまりどのように治療へのモチベイション(動機づけ)を行うかという作業です。

こうした場合、主治医と本人とのやりとりは、主治医←→患者の人格とのふれあいまでがかかわる、とても人間くさい作業となります。
この作業には十二分に時間をかける必要があります。このやりとりで本人に断酒のモチベーションができれば、治療は半分成功したといってもよいのです。反対に、どうしてもモチベーションができないとすれば、外来での治療をつづけていけないことになります。

本人にモチベーションができないときには、2つのやり方があります。まず、緊急に医療をうけさせなければ本人の身体面や社会面に大きな堤が生じるようなときは、入院の説得の切り替えとになります。

また、それほど緊急ではないとみられるときは、いったん本人を帰宅させ、再度のチャンスがきたときに動機づけをやりなおすことになります。

本人が飲酒をつづけた場合、健康面でも社会面でも重大な不利益をこうむる状態にあることを十分に説明し、そのう、冬酒をやめるのは本人の自由であるとつきはなす方針をとっています。つまり、酒をとるか命と仕事と家族をとるかは、本人の自由にまかせるのです。

しかし、こうした段階では、今日は酒をとって明日は命をとる、などのあいまいな選択はもはや許されないようになっています。そして、命と家族をとると本人が決意すれば、医師は、禁断症状や不眠のための精神安定剤や、物理的に酒を飲めなくする抗酒剤などをだすことで、ほんのチョッビリだけ、患者さんの手助けをすることができると説明します。この考え方は、アルコール外来での医師の長い治療経験から得た大切な経験だそうです。

冷たいように聞こえるかもしれませんが、かけねなしの本音であり、決しておどしやかけひきなどのハッタリではありません。
はじめは、「命などもう惜しくない」と強がっている方でも、「ほんとうにそう思っているのなら、どんどん飲んでもいいよ」とつきはなすと、「それじゃやめますから、やめるくすりをください」といいだすことも多いのです。

治療中の再飲酒のきっかけ

やっと治療をすると決めたのに再び飲んでしまう場合も

ふたたび飲みはじめる際のきっかけ

最初は、抗酒剤をのんで断酒していても、いろいろな理由をつけて、すなおにくすりをのまなくなったら要注意です。たとえば、その理由として、抗酒剤の副作用をいいたてるなどです。

たしかに抗酒剤には副作用がありますが、これはごく軽いもので、皮膚過敏症で真夏の紫外線にあたると日光性皮膚炎をおこしたり、ムシに刺されたあとがかぶれやすくなる程度です。

ふつう、七7~10mgの1日量を半分に減らせば、症状は消えます。くすりをやめる理由にはなりません。1もう自信がついた。治ったから」「抗酒剤にたよっているときはほんものではありません。

「おれはそんなに意志は弱くない」「おれをそんなに信用できないか」などという人もいます。これは、かならずしもその日の帰りにお酒を飲もうという下心からいっているわけではありません。

酒飲みは、いつでも飲めるからだにしておかないと、なんとなく心淋しいという心理があります。
こうした場合、アルコール依存症の方の奥さんに「あなたは自信があるのでしょう。しかし、あなたのお酒にノイローゼになっている私(家族)を安心させるためだけでも、抗酒剤をのんでください」と言っていただくようにしています。

「過敏になりすぎている家族の神経を静めるために、のむ必要のない抗酒剤をのんでやるのだ」という理屈で患者さんのめんつを立てると、なんとかくすりをのみつづけるものなのです。

「家族の誓い」でもみたように、日本のアルコール依存症の夫には、「家族のために命よりだいじな酒をやめてやっているのだ」という心理があり、「おれがこれだけがんばっているのだから、子どもはもっと勉強しろ、妻ももっと心のこもった料理をつくれ」と、家族ぐるみの協力を要求する傾向があります。

日本では、「夫のアルコールは、夫自身の問題だからA・A のミーティングで。それでかき乱された私たちの問題は、アラノンのミーティングで」と、夫婦のアイデンティティが分離したアメリカのようにはとてもいきません。とくにこれは、旧世代の夫婦にあてはまる傾向が強いです。

日本では、夫の断酒でとりもどした家庭の平和をしごくとうぜんのこととは思わずに、夫が命よりだいじな「酒断ちの業」を行っていることへの理解と思いやりとを、いつまでももちつづける家族の存在が、患者さんの断酒を長つづきさせているともいえるのです。

ところで、はじめにあげた夫の理屈やおどしに負けて抗酒剤をやめるのを黙認すると、そのうちに患者さんは会社の帰りにこっそりお酒を飲み、こそこそとふとんにもぐりこむようになります。
少なくともこの段階で、夫の再度の飲酒ときっばり対決して、アルコール外来にひっぱってきてください。ここで断酒の再動機づけをやりなおす作業をついおこたると、つまりは妻が飲酒を認めたことになり、つぎからは居直ってどうどうとお酒を飲むようになります。

そして妻に週1日の飲酒日を認めさせるのです。やがて、週末だけの約束のはずのお酒が、週2日になり、週3日になり、ついには毎日になって、あっという間にもとのもくあみになります。

治療での禁酒のもつ意味

アルコールを控える程度では依存症は治らないのは

1滴でも飲んではいけない

アルコール外来にひっぱってこられるようなアルコール存症の方は、適当なところでお酒を切りあげる(つまり節酒)ことができなくなっているからこそ、病院のお世話になるのです。

連続飲酒発作がどうしておこるのか、その生物学的な背景はまだ明らかではありません。しかし、依存をおこすメカニズムがいったん大脳にすりこまれてしまうと、一滴でもアルコールがはいればふたたび逮続飲酒発作がひきおこされるようになります。

人一倍強い飲酒への誘惑にたとえ、1度でも負けると、いままではせっかく抑えこんでいた「からだのなかの酒の虫」がとたんにあばれだします。

例をあげておきましょう。アルコール病棟に入院して9年間断酒に成功していた人がいました。ところが、彼が宴会でトイレにたったすきに、悪い仲間がその人のコーラにウイスキーをたらしこむという罪深いいたずらをしたのです。
その結果、その人は10後からくるったようにお酒を飲みだし、再入院になってしまいました。

この事例から、長いあいだ断酒していたアルコール依存症の人でも、たとえ1滴でもアルコールを飲むと「からだ中の血が騒ぎだしておさまらない」という恐ろしさがあるのです。

もともとアルコール依存症になるような人は、飲みたいという心理的欲求が異常に強いのです。すでに何度か触れましたが、その欲求行動にブレーキをかけているのは、意志の座である大脳の前頭葉です。

アルコールは薬理学的にみると麻酔剤であり、しかも神経学的に高次なはたらきをもつ大脳新皮質から麻酔していきます。
つまり単にたとえれば、アルコールはブレーキをこわしてしまうのです。ですから、ふつうの酒飲みでも、つい、もう1杯もう1杯とあとをひきます。

人一倍飲酒欲求が強く、依存のすりこみができあがっているアルコール依存症の人で、このブレーキが外れれば、たちまち暴走して谷底に転落死するまで酒がとまらなくなるのは明らかでしょう。

アルコール依存症の治療は、ほんとうは節酒でやれるのが理想です。しかし、このようなわけで、実際には選択の余地はありません。一生びしゃりと断酒して生きのびるか、飲みたいだけ飲んで生命を失うかアルコール依存症になった人には2つに1つしかないのです。それほどきびしい治療なのです。

断酒成功と抗酒剤

生涯断酒を続ける人生

生涯にわたる断酒をつづけるうえで、抗酒剤の役割

生涯にわたる断酒をどうつづけていくかこれを助ける方法には

  1. 抗酒剤におって体が物理的に酒を受け付けなくする方法
  2. 心理的に飲めなくしていく自助グループへの酸化

があります。

物理的に飲めなくする抗酒剤の場合、少なくとも半年単位でくすりをのむ必要があります。というのは、アルコール外来にくるような人は、長いあいだの飲酒で前頭葉のはたらきが麻痺して、怒りっぽく、ブレーキのかからない旧皮質人間に人格が低下しているからです。

こうした人から、アルコールがすっかり抜けて、前頭葉のはたらきが回復してくるには、最低でも3ヶ月はかかります。理性の座である大脳新皮質が欲求行動の発動の座である大脳辺縁系(旧皮質)にたいしてブレーキをかけているしくみにおいては、アルコール依存症の方は、完全に断酒してから少なくとも3ヶ月以上たたないと、この前頭葉のブレーキが回復してきません。

入院した患者さんは、禁断期を脱してからも1ヶ月はいらいらと怒りっぽい時期(刺激期)がつづき、やっといちおう落ちついて退院するまでに、少なくとも3ヶ月はかかるのです。
しかし、その後も1年近くは、お酒を飲んでいたころに身についた自己中心的・独善的で浅薄な対人関係のゆがみが残ります。

A・Aではこれを「ドライ・ドランク」といいますが、お酒をやめていても、以前の酔っぱらっていたときとおなじような考えかたや行動がしばらくつづくと考えなければなりません。

自助グループ参加のときのこころがけ

必要な心がけの知識

自助グループへの参加にさいし欠かせない心がけ

自分の対人関係のゆがみに気づくには、断酒会の集会で他人からそれを指摘されたり、あるいは新人の発言にかつての自分の姿をみる「ミラー効果」などが役に立ちます。

また、A・Aは12のステップで段階的に対人関係のゆがみを認識し、改善していくプログラムをもっています。お酒による性格のゆがみが消失して、まるで別人のようになったケースは多数あります。

うわべだけのきれいごとではなく、腹のなかを洗いざらい集合でぶちまけるという真剣なとりくみをする人にとって、集会はエンカウンター・グループ(集団心理療法のためのグループ)も及ばぬ効果をあげるのです。
また、依存症になるような人は、内気で、素面では文句のひとつもいえないような神経症的な傾向をもった人が多いものです。

こうした人が集合のなかで発言できるようになると、対人恐怖的な弱点が克服されて自信がつき、みるみるうちに明るくなります。このように、理性のはたらきが徐々に回復し、対人関係のゆがみが改善されるまでには、少なくとも1年間はかかります。本人にとってはあせらないことがとても大切ですし、家族にはその回復を温かく待つ忍耐が必要です。
また、そのあいだにストレスから再飲酒に走ったりしないように、抗酒剤を1年近くのみつづけたほうがよいでしょう。

断酒と生活上の注意

断酒をできる限り成功させるために

断酒成功のための生活上での注意

アルコール依存症の患者さんが命よりだいじなお酒を長期間断つためには、アルコールに依存してきたこれまでの生活態度をまるまる180度かえる決意が必要です。ことに、依存症の人には趣味のない人が多く、素面の時間をどうすごしたらよいかわからなくて悩むことが多いようです。これには

  1. いつもお酒を飲んでいたので、趣味を開発する時間がなかったケース
  2. もとは趣味をもっていたのに、お酒によって趣味から遠ざかっていったケース

の2種類があります。

もともと趣味のあった人はその趣味にもどればよいのですが、趣味のなかった人の場合、趣味や新しい生きがいをみつけさせる必要があります。

現代はストレス過剰の時代です。趣味やスポーツなどで毎日気分転換して、こころの復元力をつけないと、ふつうの人でもたちまちストレスから精神異常の水中に沈められてしまいます。

もともとアルコール依存症とは、消極的な発散法、つまり飲酒にたよりすぎ、それが仇になってついに精神病レベルのもっとも重い不適応をおこしたものです。

幸いに正常の状態に浮上できたら、こんどこそ「飲む、打つ、買う」の三道楽ではなく、その上のレベルの積極的な適応法で日ごろのストレスを発散してください。

そうしないと、また飲酒への逃避におちいってしまいます。「すまじきものは宮仕え」といいますが、たいていのサラリーマンは職場で欲求不満を味わわされるものです。そこで、サラリーマンは欲求不満によるストレス解消のために、積極的な適応法が必要なのです。

もっともよいのは、なにかをつくること、つまり創作・創造的活動です。銀行員にして作詞者であった小椋桂のような才能はないとしても、最近流行の自分史を書いたり、あるいは短歌や俳句をひねる手もあるでしょう。

娘のつかい古しのピアノで作曲すれば、あんがいヒット曲ができるかもしれません。目と指をよくつかう画家は、高齢になっても活躍している人が多く、「日曜画家」をめざせば、ふだんから脳の老化防止を行っていることにもなります。

創作的活動は、このように「自己実現欲求」をおおいに満足させますが、それにつぐものは趣味やスポーツです。会社の帰りに会員制の高級スポーツクラブにたちよる余裕はなくとも、帰宅して畳の間で愛用の釣竿を伸ばして目を閉じれば、渓流のせせらぎがまぶたに浮かぶなど、ちょっとした時間とくふうで気分転換はできるものです。

雨が降れば庭でクラブは振れませんから、碁や将棋などの室内遊戯をたしなむのもよいでしょう。若いころに修行をつんで上達しておけば、プロ棋士とまではいかなくても、盤上でちょっぴり自己を実現する芸の境地を味わうこともできます。

よい趣味をもつことは将来のボケ防止にも役立ちます。そこで、戸外と室内2つの趣味をもち、同時に頭脳系と筋肉系をくみあわせるなどバラエティーに富んだ趣味をもつのがベストなのです。

また毎日の気ばらしだけでなく、週末のテニスやバードウォッチングなどのほか、盆や正月には大旅行にでかけるなどのふんぎりも必要です。

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