マイナーであまり目立たないニッチな趣味がおすすめ

ギャンブルだけに勝利欲や名誉欲の充足を求めることに限界を感じたら、ギャンブル以外でどうやってこれらの欲望を満たせばよいのでしょうか。

勝利欲、名誉欲を得るために、どの分野を攻めるかについてのヒントは「過去に同じような魅力をギャンブル以外で感じたことはありますか? あるとしたら、それはどのようなものでしたか」という質問に対する答えから得られます。

誰しも人間には勝利飲も名誉欲もあります。ですからギャンブルに出合う前にも、その欲望を刺激されたことがあったはずです。それを思い出してみて、その延長線上でなにか探してみるのです。

勝ち負けがはっきりしない趣味では、勝利欲は達成欲に置き換えられます。そうすると「学生時代、国語の授業で俳句をつくったときに先生から褒められてすごくうれしかった」とか「撮った写真を友人にメールで送ったら、まるでプロ並みだと褒められて気分がよかった」というふうに思い出してきます。そうした記憶をヒントに「ではもういっぺん、それをやってみましょうか」というのがベストです。

このように自分が興味をそそられるテーマで、なおかつできそうなことを手当たり次第やってみます。しかし、大事なポイントがひとつあります。

それはメジャーなことにトライするのはNGです。競争相手が大勢いますから、達成欲や名誉欲を満たせる確率が低いのです。

たとえば、将棋、囲碁、麻雀などは達人たちが長年しのぎを削っていますから、新参か者が勝利欲、達成欲、名誉欲を満たせる可能性は低いのです。

勝利欲、達成欲、名誉欲を得たい人が選ぶべきは参加者が少ないマイナーな分野です。たとえばですが、川柳が好きだったので、サラリーマン川柳に応募することにしました。すると5、6回に1回は入選するようになり、名前が載るようになって勝利欲、名誉欲を満たせるようになりました。

勝利欲と名誉欲は、誰かから評価してもらわないと意味がないのです。その点、ブログはいいツールです。ネット上は、非常にマイナーでニッチな趣味を持つブロガーであふれています。

あるギャンブル依存症の方は「ハリー・ポッター」に出てくる魔法の杖のように、古い枯れ木を山から拾ってきて写真に撮って、その画像をブログに載せはじめました。いかにも自然のままの造形で、霊気と風格が漂っていることをアピールするのです。

すると同じ趣味の人から「おお、すごいの見つけたね! 」というリアクションがドッとくるそうです。こうしてアクセス数が増えたり、反響が大きかったりすることで達成感が出てやる気につながりました。普通の山登りやハイキングでも山頂に到達したときに達成感は味わえますが、その人は魔法の杖然とした枯れ木を探すために山登りをしています。

山登りサークルに入って百名山を踏破するのもよいですが、サークルのような集団のなかで評価を得ようとすると大変。個人でできる趣味的なもののほうがより手軽です。

マッチ箱、ご当地インスタントラーメン、街角の一風変わった看板や道に落ちている片方だけの手袋などの珍風景写真…。暇がない限り誰もやらないようなテーマに大真面目にとり組むのも一手なのです。

やめなくてもよい、恨まない

最近のギャンブル依存症の治療では、「ギャンブルをやめなさい!」というアプローチをしないのもの多数あります。その代わり、次のような話があります。

ギャンブルはひとつの欲望だけに絞って追求してください。勝利欲や名誉欲を追求すると、毎月これだけのお金が消えていますが、そこで「損をした」とか「お金をドブに捨てたようなもの」などと考えてないこと。

勝利の喜びと名誉と感動を体験させてもらっているのですから、それではギャンブルの提供者に失礼です。ありがたく5万円でも8万円でも「お布施」として出してください。損をした、お金をドブに捨てたという考えが頭をもたげるのは金銭欲のせいです。

その発想が頭の片隅に残っている限り、つねに不充足感がつきまといます。その結果、損失を補うという目的の「余計な」ギャンブルをしてしまいます。勝ちたいためにやっているのか、お金を儲けたいのかがわからなくなるのは邪道です。

ひとつの欲望に徹してギャンブルをしてくださいこういうことをひたすら説き続けます。「やめましょう」とか「してはいけません」とは絶対にいわないのがこのアプローチのポイントなのです。むしろ「してください」「徹底してください」「相手に感謝しましょう」と説くわけです。

ギャンブルで勝利欲を満たして代わりにお金を失ったとしても、ひとつの欲望達成には役立っているのですから、本来なら「ありがとう」と感謝すべき。それなのに欲望が乱立していると金銭欲という別の目標が達成できないゆえに「オレの金をとりやがった」という恨みに変わります。恨みを抱くと「いまに目にもの見せてやる」「全部とり戻してやる」という復讐心忙つながります。復讐心は、人間の心を狂わせます。そして、復讐心と感謝とは正反対のものです。

ギャンブルにのめり込んでいる人は、ギャンブルに対して激しい恨みと復讐心を持っています。複数の欲望を求めると、それらをすべて充足させることはできなくなり、どううまく立ちまわっても恨みや満たされない心、欲が燃え残ります。

ですから、はなからひとつの欲望だけを追求して、それを満たしてくれて「ありがとう」と心の底から感謝するべき。となると、下手な復讐心や恨みは少なくなります。復讐心や恨みがあると、とっくに尽きた緑もなかなか切れません。これを「腐れ縁」と呼びます。

勝った!オレって天才 にいくらお金をつぎこむのか

ワークシートでは「ギャンブルの目的=欲望」を重要な順番に並べてもらいます。

欲望が複数あり、たとえば、第1位が勝利欲、第2位が金銭欲、第3位が名誉欲だったとします。その場合はいちばん求めたい欲望、優先順位の高いものだけに狙いを絞ってギャンブルをしてもらいます。

勝利欲なら勝利欲、金銭欲なら金銭欲、名誉欲なら名誉欲をとことん追求してギャンブルをしてもらうのです。金銭欲に徹するとたいていプラスマイナスゼロくらいで収まるのですが、勝利欲や名誉欲を追求するためのギャンブルだと結果的にマイナスが多くなります。

あらゆるギャンブルは勝つ確率よりも負ける確率のはうが高いもの。そうでないと、ビジネスとして成り立ちません。仮にあるギャンブルに勝つ確率を10分の1 とすると、残りの10分の9 は負けてしまうわけですから、勝利欲を満たすためには結果的にマイナスが多くなるに決まっています。

つまり勝利にこだわるギャンブルでは、金銭的な損失が大きくなると覚悟するしかないのです。ただそれがいちばんの楽しみなら仕方ありません。週2回、1回1万円の軍資金でパチンコ店に通うとしたら、かかるコストは月8万円です。

そのうちの1回くらいは勝つ喜びを味わえるでしょう。それに感謝できるかどうかです。依存症の人は毎日ギャンブルをしようとしますが、勝つ喜びを得たいがためにギャンブルをするなら、それを月1 回ペースで味わえばいいと割り切るしかありません。

10回に1回しか勝てないのだとしたら、毎日通っていたら返済できない借金を背負い込むのが明らかだからです。求めたいのが勝利欲や名誉欲だとしたら、そのためにつぎ込める自分の小遣いを考えて通う回数をセーブすべき。結果的につぎ込んだお金は全部消えてしまって金銭欲は満たせませんが、その人にとっては金銭欲より勝利欲や名誉欲のほうが大事であり、レジャーであり道楽になっているのですから、なんの問題もないわけです。

酒好きでスナック通いが習慣になっている人も1回1万円前後はかかりますから、ギャンブルで1回1万円を失うのはさしたる問題とはいえません。ギャンブルで純粋忙勝つ喜びと名誉を味わいたいのだとしたらそれだけに徹するといいのですが、少し考えると勝利欲や名誉欲を味わうための必要資金としてはお金がかかりすぎていると気がつきます。

そこでこちら側から「もうちょっと安い資金で同じ感覚を味わえませんか」という疑問をぶつけます。「勝った! 」「やった! 」「オレはやっばりすごい! 」という勝利欲や名誉欲を味わうため、毎月8万円もかけているのは多すぎませんかという結論です。