非自閉型の3例

ここから非自閉型と自閉型に分けて、それぞれ3例を紹介していきます。まずは非自閉型グループのケースからです。

非自閉型の実例1

40歳男性Dさん会社員、息子と同居。性格:神経質

AQテスト:14点
Dさんは大学卒業後、正社員として会社勤めをしています。性格は神経質であり、完全主義的な傾向が見受けられました。ギャンブルをはじめたのは26年前。友人に誘われてパチンコをはじめたのがきっかけでした。

その後しばらくして競艇をはじめます。15年前からは、会社での営業成績が伸びない苦痛を和らげるために、競艇に通う頻度と賭け金が増加。ほどなく借金をするようになりました。

2年後には支払い不能となり、両親に400万円を立て替えてもらいました。そのころDさんは結婚をしていますが、ギャンブルは続きます。6年前には1000万円の借金が返せなくなり、民事再生で200万円に減額。

そうやって、なんとか返済しました。それでもDさんはギャンブルをやめませんでした。そして、3年前、会社の預かり金(10万円)を使い込み、精神科を受診。

「負けをとり戻したい一心でした。今後は一刻も早く埋め合わせをして、償いをしたい」と語ったDさん。通院と自助グループへの参加をはじめましたが、すぐに中断してしまいました。1年後、Dさんは仕事の失敗で20万円の損害を出します。それを埋め合わせるため会社のお金を使い込み、再びギャンブルをした結果、損出額が500万円に膨らんでしまい、子どもの学資金の転用と借金で埋め合わせました。

Dさんは周囲からの非難の声に耐えられなくなり、自殺を図ります。幸い未遂となり、精神科の再受診となりました。そこでD さんは「妻から責められています」「自分のしたことなので、一度は死んだ身として耐えるほかない」「借金の支払日にはギャンブルをしたくなります」と苦しそうに、そして諦めたように語りました。
それから自助グループへの参加と通院を再開。3年後、息抜きとしてネットカフェを利用し、現在はギャンブルをやめています。

非自閉型の実例2

50歳男性Eさん会社員、妻子と同居、おおらかな性格

AQテスト:14点
Eさんは高校卒業後、正社員として会社勤めをしています。大らかで気前のよい性格です。ギャンブルをはじめたのは 30年はど前。仕事の息抜きとしてパチンコ店に通うようなり、20年ほど前からは毎日通うようになりました。このころ、結婚をしています。

10年はど前からは、会社から給料の前借りをするようになり、その後、消費者金融からの借金もはじめました。3年前、200万円に膨れあがった借金が支払い不能となり、債務整理をしました。しかし、債務整理の3週間後にはギャンブルを再開。

1年前には借金が500万円にまで膨らみ、精神科を受診しました。Eさんは「パチンコで勝ったとき、まわりの客に注目されるのがうれしかった」「どうにでもなれ、というやけっぱちな考えと、どうにかなる、という甘えた考えがあります」と語りました。

その後、自助グループに定期的に通うようになり、暇なときや妻と口論したときなどにギャンブル欲求が出るものの、パチンコに通うことはなくなります。1年前、「自助グループでも自分を飾っている」「仕事への飲も減ってきた」「モヤモヤしたむなしさがある」と語りました。

それから3年後、自助グループで回復プログラムにとり組み、「相手に恩を売って、大物ぶりたいのが自分の本性でした」「抑圧的だった両親への反抗心があったのかもし臥れません」と自己洞察を深めます。それから自分の「棚卸し」のために自分史をつくり、見せてくれました。そこには「大人になれない私」というタイトルがつけられていました。現在、Eさんのギャンブル欲求はほとんどなくなっています。

非自閉型の実例3

30歳男性Eさん会社員、独身、まじめな性格

AQテスト:19点
Fさんは大学卒業後、正社員として会社に勤務しています。生まれつき真面目で、まわりに合わせる性格です。そんなFさんは20年ほど前からパチンコをはじめ、10年はど前にはほぼ毎日通うようになりました。すると生活費が不足するようになり、消費者金融で借金をするようになりました。

でも、Fさんは「いままで“よい子”でやってきたから、少しは楽しんでもいいだろう」と内心思っていたそうです。ときを同じくして、ある女性と交際しましたが、ささいなことから攻撃的になる面を敬遠されて交際は長続きしませんでした。

その苦しさから逃れるために、さらにパチンコへ傾倒することになります。I6年前、400万円の借金が支払い不能となり両親に立て替えてもらいましたが、すぐにパチンコを再開。その後、闇金(非合法の貸金業者)にも手を出します。

3年前には、再び借金が500万円となり、自殺念慮(自殺したいという強い思い)が出てきて精神科を受診。

Fさんは「いままで生きてきたなかで、パチンコは一番熱中できるものです」「嫌なことを忘れさせてくれます」と語る一方、「最近は借金を返すためにパチンコをしているので、もう楽しめない」と話してくれました。

そして「これ以上親を困らせてはいけないと思うと、かえってパチンコをしたくなる」と語り、ギャンブル癖と両親への両価的感情との関連がうかがわれました。

とくに母親への憎悪を“自らを責め続ける敵” と表現しました。
受診後もパチンコはとまらず、自殺願望が強まったため、3ヶ月後入院。両親への攻撃性が自己へ向かい、自らを罰したいという衝動となり、それが破滅的なギャンブルへ転化してぃると推測されましたから、「集中内観療法」を実施。

その結果、母親は「押しつけがましいのではなく、子ども思い」であり、父親は「頑固なのではなく、不器用だが優しい」という認知の変化が見受けられました。

その修正によって、ギャンブルの衝動は半減しました。1年前、Fさんは「自分だけがつらいと思っていた」と語り、自助グループへ通っています。ギャンブルの衝動は軽度ながら出没していますが、パチンコ通いはやめています。

自閉症スペクトラム自己診断基準

次の50問に

  • 1=そうである
  • 2=どちらかといえばそうである
  • 3=どちらかと言えばそうでない(違う)
  • 4=そうではない(違う)
    1. 何かをするときには、1人でするよりも他の人と一緒にするはうが好きだ。
    2. 同じやり方を何度も繰り返し用いることが好きだ。
    3. 何かを想像するとき、映像(イメージ) を簡単に思い浮かべることができる。
    4. 他のことがぜんぜん気にならなくなる(目に入らなくなる)くらい、何かに没頭してしまうことがよくある。
    5. 他の人が気がつかないような小さな物音に気がつくことがよくある
    6. 車のナンバーや時刻表の数字などの一連の数字や、とくに意味のない情報に注目する(こだわる) ことがよくある。
    7. 自分では丁寧に話したつもりでも、話し方が失礼だと周囲の人からいわれることがよくある。
    8. 小説などの物語を読んでいるとき、登場人物がどのような人か(外見など) について簡単にイメージすることができる。
    9. 日付についてのこだわりがある。
    10. パーティや会合などで、いろいろな人の会話についていくことが簡単にできる。
    11. 目分が置かれている社会的な状況(自分の立場) がすぐにわかる。
    12. 他の人は気がつかないような細かいことに、すぐに気づくことが多い。
    13. 作り話には、すぐに気がつく(すぐわかる)。
    14. text
    15. モノよりも人間のほうに魅力を感じる。
    16. それをすることができないとひどく混乱して(パニックになって)しまうはど、なにかに強い興味を持つことがある。
    17. 他の人と、雑談などのような社交的な会話を楽しむことができる。
    18. 自分が話をしているときには、なかなか他の人に横から口を挟ませない。
    19. 数字に対するこだわりがある。
    20. 小説などを読んだり、テレビでドラマなどを観ているとき、登場人物の意図をよく理解できないことがある。
    21. 小説のようなフィクションを読むのは、あまり好きではない。
    22. 新しい友人を作ることは、難しい。
    23. いつでも、物事のなかになんらかのパターン(型や決まりなど) のようなものに気がつく。
    24. 博物館に行くよりも、劇場へいくはうが好きだ。
    25. 自分の日課が妨害されても、混乱することはない。
    26. 会話をどのように進めたらいいのか、わからなくなってしまうことがよくある。
    27. 誰かと話をしているときに、相手の話の「言外の意味」を理解することは容易である。
    28. 細部よりも全体像に注意が向くことが多い。
    29. 電話番号を覚えるのは苦手だ。
    30. 状況(部屋の様子やものなど)や人間の外見(服装や髪型) などが、いつもとちょっと違っているくらいでは、すぐには気がつかないことが多い。
    31. 自分の話を聞いている相手が退屈しているときには、どのように話をすればいいかわかっている。
    32. に2 つ以上のことをするのは、簡単である。
    33. 電話で話をしているとき、自分が話をするタイミングがわからないことがある。
    34. 自.分から進んでなにかをすることは楽しい
    35. 冗談がわからないことがよくある。
    36. 手の顔を見れば、その人が考えていることや感じていることがわかる。
    37. 邪魔が入ってなにかを中断されても、すぐにそれまでやっていたことに戻ることができる。
    38. 人と雑談のような社交的な会話をすることが得意だ。
    39. 同じことを何度も繰り返していると、周囲の人からよく言われる。
    40. 子どものころ、友達と一緒に、よく「●●ごっこ」(ごっこ遊び) をして遊んでいた。
    41. 特定の種類のものについての(車について、鳥について、植物についてのような) 情報を集めることが好きだ。
    42. あること(もの)を、他の人がどのように感じるかを想像するのは苦手だ。
    43. 自分がすることはどんなことでも慎重に計画するのが好きだ。
    44. 社交的な場面(機会)は楽しい。
    45. 交的な場面(機会) は楽しい。
    46. 新しい場面(状況 に不安を感じる。
    47. 初対面の人と会うのは楽しい
    48. 社交的である
    49. 人の誕生日を覚えるのは苦手
    50. 子供と「●●ごっこ」をして遊ぶのが得意。
採点方法
項目、2、4、5、6.7、9、12、13、16、18、19、20、21、22、23、26、33、35、39、41、42、43、45、46は1か2に○をつけた場合に1点、それ以外の高億は3か4に○をつけた場合に1点として集計する。

は50点満点で成人健常群の平均値は17~20点といわれていますが、点数が高くなるほど自閉症的な傾向が強くなります。
ギャンブル依存の方にはこのAQテストを行い、平均点以上の自閉型と平均点以下の非自閉型の2つの群に分けてそれぞれの特徴を分析します。

欲望充足法が成功した3つの回復例

脱ギャンブル「名誉欲の充足」

Aさん:60歳女性、パート勤務、長男と二人暮らし。

Aさんは高校卒業後に結婚。専業主婦として2人の子どもを育ててきました。15年前に夫が病死したものの、保険金などで生活は安定していました。

はじめてギャンブルをしたのは1年前でした。友人らと馬券の共同購入をはじめたのですが、損失のはうが多い状況でした。最近は、個人購入をはじめ、損失額は250万円を超えるまでに膨らみました。

長男からも借金をするようになり、家族にすすめられて精神科を受診。

Aさんは当初、「競馬は老後の生活資金を増やすための投資なので、やめるつもりはないと病院治療に対して否定的でした。これだけ聞くとギャンブルを続けている動機は「金銭欲」ということになります。

でも、「競馬で250万円も摂していますよ。それでもお金のために競馬を続けますか? 」といった質問を重ねてみると、「お金を増やして、まわりの人たちを助けたい」という救済願望が現れてきました。

Aさんと話しているうちに、この救済願望は一種の「お世話欲」であり、その根底には「名誉欲」が潜んでいることがわかりました。

その名誉欲を充足させる手段として、間接的である競馬投資をやめて、欲望を直接的に満たしてくれる行為に専念することを提案。その結果、パート先の同僚やお客さんの世話に励むようになり、その後、競馬はやっていません。

脱ギャンブル「現実逃避欲の充足」

Bさん:30歳代男性、無職、両親と3人事らし
対人緊張が強くて、内向的な性格のBさん。高校時代に不登校となった経験の持ち主です。祖父に連れられてパチンコをやりはじめたのが数年前です。すぐに毎日通うようになりました。当初は勝つことが多かったのですが、ほどなく損失が上まわるようになりました。

それでも損失は小遣いの範囲内に留まっていたので大きな問題にはなりませんでした。この前後から精神科クリニックに通院。「操うつ病」と診断され、薬を飲むようになりました。その間、アルバイトと睡眠以外は、パチンコをする日々を送ります。

その後、インターネットで競艇をはじめるようになり、最終的には借金が100万円を超えて返済不能に陥りました。自殺目的で睡眠剤を過量服用したため、家族に連れられて精神科を受診。「双極性障害Ⅱ型」が併存していました。双極性障害Ⅱ 型とはいわゆる操うつ病であり、Ⅰ型と比べてⅡ型はコントロールが難しいとされています。

また失敗を恐れるあまり、他人との交流や挑戦を避ける回避傾向がありました。ギャンブルの動機としては「借金を返すためにレートの高い競艇をはじめた」と本人は答えましたが、その根底には「当たっても冷めていた」「ただ現実から離れられることが喜び」という現実逃避欲があることがわかりました。

そこで現実逃避欲を満たす睡眠誘引力を高めるため、入浴およびサウナ、適量の飲酒を利用しました。さらに疲労で眠りを誘導するために、アルバイトと趣味の自動二輪のツーリングを再開。

これらによりパチンコと競艇をやめています。本人は、これらを「面白くない日常からの寝逃げ法」と表現して実践しています。

脱ギャンブル「母親からの許しの実感」

Cさん:60歳代女性、無職、単身
負けん気が強く、意地っ張りな性格のCさん。実父に酒乱癖があり、本人への暴言もあったようです。中学校卒業後に家出。

以来、20歳代前半で結婚するまで、実家との交流を断っていました。結婚後、二児をもうけたものの、40歳代で離婚しました。

およそ20 年前から、気晴らしのために小遣いの範囲でパチンコをしていました。母親が亡くなってからは、パチンコに通う頻度と投資額が急増。負けると長男や親戚に当たり散らした挙げ句、「死にたい」と脅して借金を繰り返しました。

その後、借金総額が300万円となって自己破産。その後、自傷行為を起こして精神科クリニックを受診。「うつ病」と診断され、投薬を受けるようになります。

生活保護の受給を開始しましたが、ギャンブルでの借金と情緒不安定が続いたため、精神科を受診しました。「非内因性うつ病」が併存していました。ギャンブルの動機としては「何も考えなくていいから」と現実逃避が主でした。

そして「母を入院させたために死期を早めた」という罪悪感から逃れるためにパチンコにのめり込んだ背景もわかりました。
所見としては、父親への敵視と母親の過剰な理想化、そして母親の介護を苦痛に感じて秘かに死を望んでいたことへの否認など、母親に対する相反する感情(両価性)が見受けられました。そこで欲望充足法に基づく介入に先行して「自分を許すこと=母親から許されること」を目標にカウンセリングを実施。

同時に抗うつ薬の投与など、薬物療法も続けました。Cさんはカウンセリングの結果、「母はとっくに自分を許してくれていた」ことに気づくなど、自己への洞察が徐々に深まり、現在では気分転換としてパチンコの代わりにカラオケを楽しんでいます。ここでCさんに対して実施したカウンセリングには、後述する内観療法の技術を利用しました。