特に働き盛りの男性はストレス解消にお酒を飲む人が多い
紹介したように中国や西欧ではむかしから酒の強壮剤や栄養剤としての効用が有名でした。
しかし、わが国ではもっぱら、酒のトランキライザーとしての効能のほうがよく知られていました。「倭人(日本人) が酒をこのみ、葬儀に乱酔して酔い泣きしている」とのくだりがでてくるほどです。
つまり、わが国は、卑弥呼の時代から、酒は対象喪失の悲しみを忘れさせる向精神剤としてもちいられたったのです。
それだからこそ、奈良朝の貴公子、大伴旅人も「験しなき 物を思はずは一杯の濁れる酒を飲むべくあるらし」と愁いをしずめるトランキライザーとしての酒の効力をたたえています。
また、柳沢淇園(江戸中期め文人) の『飲酒十徳』も、酒は「礼を正し、労をい、憂をわすれ、鬱をひらき、気をめぐらし、病をさけ、毒を解し、人と親しみ、縁を結い、人寿を結ぶ」と、もっぱらストレス解消と抗うつ作用、コミュニケーション促進など、心理面の効用を強調しています。
そもそも、「酒はうれいの玉箒」という名文句は近松門左衛門の戯曲のさわりであり、このようにわが国で酒の心理面の効能のみが強調されてきた理由は、わが国がむかしから和を重んじる国家であっただけに、ストレスがたまりやすい社会だったためであるといえないでしょうか。