食べ物や飲み物のなかに入った有害物質によって、下痢や吐きけ、嘔吐、発熱、けいれん、昏睡などの中毒症状を起こすのが食中毒である。原因となるものによって、細菌性食中毒と非細菌性食中毒に分けられる。

細菌性食中毒

食べ物などと一緒に細菌、または細菌のつくる毒素が体内に入ったために起きる食中毒で、原因となる細菌は現在、約15種類が知られている。そのうち食中毒を起こす頻度や症状から重要なのは、腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、病原性大腸菌、ウェルシュ菌、ブドウ球菌、ボツリヌス菌、カンピロバクターなどである。

症状

同じ細菌性食中毒でも、原因となる細菌によって症状のあらわれ方や経過に違いがある。腸炎ビブリオ食中毒食中毒のきっかけとなる原因食を食べてから、10時間ほどで発病する。ただし発病までの時間にはバラつきがあり、早いときでは2時間ほど、遅いときだと24時間くらいかかることがある。
症状は、はじめ上腹部の痛みと不快感があらわれ、続いて吐きけや嘔吐、下痢といった症状があらわれる。また吐きけなどの症状が出るころに、37~38度の発熱があることが多い。便は水っぽく、しばしば血便となる。ほとんどの場合、経過は良好で、発病してから24時間程度で症状が軽くなり、3日以内で治る。ただ、まれには症状が悪化して、脱水症状を起こして死ぬこともある。夏に多い食中毒である。

サルモネラ食中毒
食後12~24時間で発病し、腹痛、下痢、嘔吐、発熱といった症状に、頭痛や寒け、全身の脱力感などを伴う。
下痢は腸炎ビブリオの場合と同じく、水様便でときに血便となる。2~3日で快方に向かい、1週間ほどで治る。ただ症状が消えたのちもサルモネラ菌が体内に残ることが多いので、しばらくは検査を続ける必要がある。なお原因食には加熱が不十分な肉や鶏卵のほか、納豆やマヨネーズ、乳製品、氷あずきなどがある。
病原性大腸菌食中毒
大腸菌にはいろいろな種類があり、その多くは無害である。だが、なかには病原菌となって食中毒を引き起こすものもあり、それらの大腸菌を病原性大腸菌と呼んでいる。原因となる病原性大腸菌の種類がひとつではないため、症状もさまざまだが、ほとんどが4~5日で快方に向かう。注意が必要なのは、腸管出血性大腸菌0157。子どもや高齢者が感染すると、激しい腹痛と血便に見舞われたり、腎臓機能が低下して尿が出にくくなったり、脳症を発症して死に至ることもある。
ウェルシェ菌食中毒
原因となるウェルシュ菌が熟に強いため、いったんこの菌に汚染されると、加熱調理したものを食べても食中毒になることがある。これは加熱調理したさいに菌が完全に死なず、数時間以上そのまま放置しておくと再び繁殖をしてしまうから。症状は腹痛と下痢がおもで、24時間以内で回復する。
カンピロバクター食中毒
カンピロバクター・ジェジュニーという細菌が原因で起きる食中毒である。この菌は以前から食中毒の原因となることが知られていたが、適切な培養方法がなかったため、どの程度、食中毒に関係しているかがわからなかった。それが最近になって簡単な培養方法が見つかり調べてみると、いわゆる食あたりの多くがこの菌によって起きていることがわかったのである。原因食としては鶏肉や豚肉が知られているが、井戸水や川の水によって大型の集団食中毒を起こすこともある。症状は腹痛や吐きけ、嘔吐、下痢、発熱といった一般的な食中毒症状だが、ときには赤痢と間違うような血便が出ることもある。多くは1週間以内で症状が消えるが、サルモネラ菌と同様、体内に生き残ることがあるので、回復後も検査を受けたほうがいいだろう。なお、だいたい5日間ほどの潜伏期を経て発病することが多い。
ブドウ球菌食中毒
ブドウ球菌がつくるエンテロトキシンという毒素が原因で起きる。牛乳やバター、チーズ、クリームといった乳製品やかまぼこ、おにぎり、折詰め弁当などで起きることが多い。症状は、腹痛や下痢、嘔吐、吐きけなど食中毒としては一般的なものだが、ほかの食中毒に多い発熱がみられないという特徴がある。またカンピロバクターとは対照的に潜伏期が短く、食後3時間ほどで発病する。経過はおおむね良好で、子どもや高齢者でまれに脱水症状やショック症状があらわれるほかは、1~2日で治る。ただエンテロトキシンは熟に強く、いったん汚染された食品は、加熱処理をしても食べると発症する。
ボツリヌス菌食中毒
食中毒のなかで最も症状が重いもので、腹痛、吐きけ、嘔吐、下痢といった一般的な食中毒症状とともに、物が二重に見える、うまくしやべれない、呼吸困難などの神経症状があらわれる。平均1~2日の潜伏期を経て発病し、呼吸不全で生命を落とす例も少なくない。ただし発病後10日以上たてば生命の危険は去る。生魚を使ったすしなどが原因食となることが多い。

診断

どのタイプの食中毒も、腹痛、下痢、嘔吐などの症状があらわれるため、診断はむずかしくない。ただ原因を確定するために、便や吐物、原因となった食べ物を調べて共通する原因菌を見つけ出す必要がある。

治療

脱水症状に対して水分を補給するなどの全身管理と抗生物質を中心にした薬物療法、それに食事療法が中心になる。

  • 全身管理
    嘔吐や下痢がたび重なると、全身の水分が不足して脱水症状をまねくことがある。ことに高齢者や乳幼児はその危険性が高く、放置すればショック状態になって生命を落とすことになる。そのため食中毒の全身管理では水分の補給が重要である。具体的には、患者の状態が許せばスポーツ飲料などを飲ませ、それができない場合には、ブドウ糖液やリンゲル液を輸液によって補給する。また嘔吐を止めるための薬や整腸剤が用いられることもある。
  • 薬物療法
    症状が重い場合には抗生物質による治療が必要になることもある。また子どもや高齢者、あるいは糖尿病や肝臓病などのある人や胃腸が弱い人の場合も抗生物質が用いられる。ただ抗生物質は、原因となる細菌を確定してから用いるのが原則で、それには24~48時間は必要である。しかし、それでは間に合わないこともあるわけで、その場合には原因食や季節、症状、年齢などから原因菌を推定して治療を始めることになる。なお、ブドウ球菌食中毒やボツリヌス菌食中毒では抗生物質が効かないので、強力な輸液療法が中心になり、ボツリヌス菌食中毒では、それに加えてボツリヌス菌抗血清が注射される。
  • 食事療法
    はじめは流動食、次いで半流動食、全がゆといったように、便の様子をみながら、消化のよいものから常食へと移していく。水分は十分に補給しなければならないが、冷たい飲み物は胃腸を刺激するので避けなければならない。

非細菌性食中毒

細菌以外の原因で起きる食中毒には、化学物質によるものと、キノコやフグなど自然界に存在する毒によるものとがある。

化学物質による食中毒
ヒ素やカドミウム、スズなどのほか変質した油脂でも、細菌性食中毒と同じく、腹痛や下痢、嘔吐などの症状を伴う食中毒が起きる。またメタノールによる中毒は、失明などの眼症状が出ることで知られている。治療法としては強力な輸液療法と全身管理が行われ、必要なら胃洗浄や下剤による有害物質の排泄、人工透析が行われる。
毒キノコ中毒
食中毒をまねく植物性の自然毒としては、最も一般的なのが毒キノコである。日本はキノコの繁殖に合った気候風土をもつため、キノコの種類が多い。それだけに毒キノコの種類も多いが、その多くは特有の色と形、においをもっているため、食用キノコと間違えることは少ない。ただ、なかには食用キノコとよく似ているものがあり、それらを誤って食べて食中毒を起こす場合が少なくない。
フグ中毒
動物性の自然毒が原因となる食中毒では、最もよく知られているもので、年間100人以上のフグ中毒患者と20~30人の死亡者を出している。フグ食中毒の原因となるのはテトロドトキシンと呼ばれる物質で、青酸カリの13倍もの毒性をもち、神経の刺激の伝導を遮断する働きをもっている。