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肺結核

結核菌の感染による慢性伝染病で、かつて「死の病」として恐れられた病気である。戦後、予防法の普及や化学療法の進歩によって死亡率は激減したが、現在も発病する人が後を断たない。昔ほど猛威をふるうことはないとはいえ、やはり恐ろしい病気のひとつである。

症状

肺結核は徐々に悪化する慢性的な病気のため、はじめのうちは自覚症状に乏しい。そのため微熱や倦怠感、食欲不振、体重減少、月経異常といった初期症状があらわれたときには病気はすでに半ば以上進んでいることが多かった。
そして、さらにせきやたん、喀血、呼吸困難、胸の痛みなどの症状があらわれるころには、病気はかなり重くなっていることが多い。
肺結核による発熱は、微熱あるいは高くても38度程度で、発汗や顔面紅潮、ふるえなどを伴うことが多く、たんに血が混じることで肺結核に気づくこともある。なお、ときには、少量の血のかたまりのような血たんが出ることがある。

感染は、おもに患者のせきなどによって結核菌に感染する。ただし感染したからといって肺結核になるとは限らず、青年期までに大多数の人が感染するといわれるわが国でも、実際に発病するのは数%にすぎない。これは多くの人が結核菌に対する免疫をもっているからである。

検査と診断

診断は、胸部X線撮影と、たんの細菌学的検査が中心になる。細菌学的検査にはたんそのものを直接と調べる塗抹検査と、たんのなかの結核菌を培養して調べる培養検査とがある。培養検査は有効な薬までわかる長所があるが、時間がかかる。そこで最近では、結核菌特有のDNAを検出する遺伝子診断(PCR)も行われている。

肺結核の治療は化学療法が中心となり、病状に応じて安静・栄養といった一般療法や、ときには手術が行われる。また周囲の人間を感汎米から守るためばかりでなく、治療効果の観察や薬の副作用のあらわれ方をみるためにも、入院して治療を受けなければならない。
そして少なくとも、たんのなかに結核菌が存在したり、胸部Ⅹ線写真で肺の状態が入院前より悪くなっているときは隔離が必要である。ただし現在では適切な化学療法を受ければ、三〜四か月でたんのなかの結核菌が消えるので、ほかの人への感染の危険性は事実上なくなる化学療法に用いられる薬にはストレプトマイシンをはじめとしていろいろあり、それらの適切な併用でほとんどすべての肺結核を治すことができる。

予防

感染を防ぐこと、結核菌に対する免疫がない人はBCGワクチンによって免疫をつけることが柱となる。感染を防ぐためには患者を入院させることが何よりも大切で、現在では結核予防法によって強制入院が義務づけられている。

肺炎

鼻や口から吸い込んだ空気は、咽頭、喉頭、気管、気管支を経て肺胞という組織に入り、ここで酸素と炭酸ガスの交換が行われる。鼻や口から肺にいたる気道を通って入ってきた細菌やウィルスなどの病原微生物が肺に感染し、肺胞を中心に炎症が起こった状態を肺炎という。
以前は非常に恐れられたこの病気も、現在では検査、治療法の進歩で完治しやすくなった。
しかし、死亡率は依然として高く、乳幼児や高齢者、からだの衰弱している人にとっては油断できない病気である。
肺炎にはさまざまなタイプがあるが、一般に、ふだん健康な人が日常生活で感染してかかる肺炎を「市中肺炎」といい、ほかの病気で入院中のからだの弱っている人が発症するものを「院内肺炎」という。

原因と種類

肺炎は、主としてさまざまな病原微生物によって起こる。感染が疑われる場合には、その病原微生物を特定するために「グラム染色」という検査が行われる。
たんを採取して染色し、細菌などの色や形を調べるもので、その症状によって肺炎は定型肺炎とと非定型肺炎とに分けられる。定型肺炎(細菌性肺炎) 細菌に感染して発症するもので、たんをグラム染色すると、細菌が紫色やオレンジ色に染まる。肺炎の約70%を占める。
原因となるおもな細菌には、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、クラブシュラ菌、肺炎桿菌菌、緑膿菌などがある。
市中肺炎を引き起こす代表的な細菌は肺炎球菌で、インフルエンザやかぜ症候群に引き続いて起こることが多い。気管支拡張症や慢性気管支炎などの既往歴のある人が、インフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは異なる) によって肺炎にえんげかかることもある。
高齢者に多い嚥下性肺炎も細菌感染が原因である。
一方、院内肺炎の多くは、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や緑膿菌など、健康な人が感染しても発症することが少ない細菌が原因である。
非定型肺炎たんのグラム染色をしても染まらない場合で、おもに細菌以外の微生物が原因。マイコプラズマやクラミジアなどの微生物、インフルエンザウイルスやアデノウィルスなどのウィルスによって引き起こされる。

症状

定型肺炎と非定型肺炎では症状に違いがあり、一般に非定型肺炎のほうが症状が軽いとされる。定型肺炎急激に進行して、重症化しやすい。
おもな症状は、発熱と激しい寒け、せき、たんなどで、体温は39度を超える高熱になることもある。せきやたんが長く続き、ひどいときは夜眠れないこともある。
また、肺炎が進行して、肺をおおう胸膜に炎症が達すると胸の痛みを伴う。
高熱やせき、たんとともに胸痛がみられるときは、肺炎の疑いが強くなる。たんは黄色や緑色を帯びた膿性で、ときに血液がまじることもある。
とくに気管支拡張症などの既往歴がある場合には、血たんがしばしばみられる。ふつう、かぜ症候群やインフルエンザの場合は2~5日で解熱するが、肺炎では熱が1週間以上続くことが多い。
また、かぜに比べて倦怠感が強く、食欲も減退する。しかし、高齢者では発熱がみられないこともあるので注意する必要がある。

マイコプラズマ肺炎

非定型肺炎のなかでは最も頻度が高く、小児期から20~30歳代の比較的若い世代に多く発症する。たんを伴わない激しく頑固なせきが長く続くのが特徴。熱は微熱から高熱まであるが、高熱を発した場合でも全身状態は良好である。マイコプラズマは肺炎以外に気管支炎、小児では細気管支炎の原因にもなる。

クラミジア肺炎(オウム病)

クラミジアはウィルスに近い微生物で、1989年に新種として認められた新しい肺炎。感染後1~2週間の潜伏期間を経て発症し、頭痛や筋肉痛を伴って高熱やからせき、胸痛などの症状があらわれる。重症化すると、意識障害があらわれることもある。

ウイルス性肺炎

頭痛、発熱、筋肉痛、倦怠感などがおもな症状で、せきやたんは少なく、細菌性肺炎ほど重くならない。ただし、インフルエンザウイルス肺炎は、重症化すると高熱が出て、呼吸困難などを引き起こし、経過は2~3週間にも及ぶことがある。

治療

治療の基本は原因菌を排除することで、そのために抗生物質が投与される。ペニシリン系やセフェム系、テトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系などが病状に合わせて用いられている。また、たんやせきなどの対症療法として去たん剤やじ鎮咳剤などが必要に応じて処方される。
体力の維持・回復には安静を保つことが大切。体力を補うための十分な栄養補給と水分補給も欠かせない。症状が激しいときや脱水症状がある場合、呼吸障害や慢性の呼吸器疾患のある人では入院治療が必要になることがある。

インフルエンザ

インフルエンザはかぜの一種ではあるが、感染力がきわめて強く、また症状も重いかぜである。急に高熱を発し全身的な衰弱をもたらすが、合併症が出なければ短期間で症状は快方に向かう。
しかしいったん合併症を起こすと肺炎や心筋炎、脳炎といった生命の危険を伴う病気を呼び起こすので、油断は禁物。

症状

かぜの一種であることからその症状もかぜとよく似ている。ただし症状のあらわれ方は急激で、かつ重い。一般に1~2日の潜伏期のあと突然の寒けとともに38~40度もの高熱を発する。
ただし、ほとんどの場合、初日の熱が最も高く、早ければ1~2日、遅くても一週間ほどで熟は下がる。発熱以外の症状としては、せきや鼻みず、のどの痛みといったかぜと共通したもの以外に、腰痛や筋肉痛など全身症状があらわれるのが特徴である。
また、ときには吐きけをもよおすこともある。大流行時以外は合併症を起こすことはまれだが、高熱が3~4日たっても下がらない、いったん下がった熱が再び上昇した、全身の衰弱が著しいといった場合には二次的な細菌感染の疑いが強く、血液検査やX線撮影などの精密検査が必要である。なおインフルエンザは、その主症状にいくつかのパターンがある。

  1. カタル型…発熱、のどの痛み、鼻みず、鼻づまり、せき、たんなど。
  2. 肺炎型…肺炎をおもな症状とし、高熱が続き、重い場合には呼吸困難やチアノーゼなどの症状があらわれる。せきやたんも多くなる。
  3. 胃腸型…おもに消化器系に異常が出る。
  4. 肺炎および脳膜炎型…意識がなくなったり、けいれんを起こすなど、神経系の症状が出る。
  5. 発疹型…発疹をおもな症状とする。
  6. 電撃型…初期から重い症状があらわれ、1~2日で死亡する。

3と5は少ない。

原因と診断

インフルエンザはA 型、B型、C型およびその他のインフルエンザウイルスによって感染する。感染は飛沫感染で、患者のせきやくしゃみによってウイルスが空気中にばらまかれ、それを吸入した人間に感染する。インフルエンザは流行時には特別な検査をしなくても容易に診断ができるが、流行時以外に発病した場合には診断がむずかしく、咽頭の分泌液やうがい水、鼻みず、たんなどのなかのウイルスを検査したり、血清検査などによって確実な診断を下している。

合併症

インフルエンザの怖さは、なんといっても合併症にある。とりあえず急性症状がおさまっても衰弱や高熱が続くときには、医師の精密検査を受ける必要がある。
インフルエンザの合併症のなかで、肺炎をはじめ急性気管支炎、肺膿瘍、膿胸などの肺合併症は、5~15%の割合でみられる。なかでもインフルエンザウイルス、または二次的な細菌感染による肺炎は、インフルエンザの合併症のなかでも最も死亡率が高いので十分な注意が必要。
その他の合併症状としては副鼻腔炎や中耳炎、心筋炎、脳炎、多発性神経炎などがあげられる。合併症のあらわれ方はウィルスの型や感染力、患者の免疫状態などによって異なってくる。
とはいえ、細菌性肺炎や心不全はもちろん、気管・気管支へいそくしんしゆつ閉塞による窒息や肺への出血性港出物の出現などがあれば、死に至ることもある。

治療

インフルエンザはかぜと同様、効果的な薬がなく、治療法としては症状を軽くするための対症療法と、合併症に対する予防・治療が主となる。合併症がない場合には発熱中、体力の消耗を避けるためにベッドで安静にしていなければならない。せきにはトローチや温かい飲み物が、頭痛や筋肉痛にはアスピリンなどの鎖痛剤が効果的である。
また回復期に入っても1週間程度は仕事などを控えたほうがよい。
本来、抗生物質を用いる特殊療法は不要となっているが、高齢者や孔幼旧ぺ妊婦、あるいは糖尿病患者や心肺機能に支障のある人など抵抗力の弱い人、そして心身を酷使する仕事についている人には、合併症を防ぐために抗生物質が用いられることもある。なお食事は高エネルギーのものを少量とることが基本で、消化器に負担のかかる高脂肪食は避け、水分を十分に補給するようにする。

予防

インフルエンザの予防策としてはワクチンの注射が一般的である。注射は一週間から10日の間隔をあけて2回行われ、効果があらわれるのは注射後2週間ほどたってから。有効期間は3~6ヶ月とされている。このほか感染を防ぐために、患者との接触を避けたり、外出から帰ったら手を洗い、うがいをすることも大切である。
また万が一、自分が感染した場合には、マスクをして人にうつさないように心がけたい。